澁谷 司の「チャイナ・ウォッチ」 -370-
中国クラウドファンディング会社倒産事件

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 澁谷 司

 今年(2019年)、広東省東莞市の「東莞団貸網インターネット科技服務有限公司」(www.tuandai.com。以下、「団貸網」)という大手「P2P」会社が倒産した。全国でトップ10に入っていた企業だった。
 元来、「P2P」(Peer to Peerの略)とは、「ネットワーク上に存在する端末(コンピューター)が、1対1の対等な関係で通信を行うこと。またはその通信を提供するソフトのこと」(『知恵蔵』)である。
 但し、ここでいう「P2P」は、更にそれを発展させ、ネット上で出資者を募り、ある程度まとまった資金を借りたい人に出資する“システム”を指す(いわゆるクラウドファンディング)。
 出資者としては少額でも出資できるし、銀行の利子よりも高利回りが期待できる。借り手も、割と低い金利で資金調達が可能である。
 普通、中国では、国有銀行は一般の起業家にはカネを貸さない(ただ、中国共産党幹部とのコネがあれば、その限りではない)。もし、起業家が資金を借りるとすれば、日本のサラ金のような金融機関(かつての「銭荘」)から高利のカネを借りる必要がある。企業が大きくなり、社会的信用を得れば、ようやく国有銀行も出資する。これまで、起業家は資金集めに苦労していた。
 ところが、近年、「P2P」が出現したため、以前ほど、起業家は資金調達に困らなくなった。「P2P」の利子は国有銀行より高いが、サラ金まがいの金融機関よりもずっと金利は安い。
 倒産した「団貸網」は、2011年に創立され、翌12年、正式にネット上で運営を開始している。
 登録者数、約830万人、出資者はおよそ22.2万人、借り手は37.2万人前後いた。2019年2月28日現在、過去の累積売上高は1307億7000万元(約2兆1720億円)に達する。ただ、未回収資金が146億元(約2425億円)にのぼるという。
 会社トップの唐軍は1987年生まれで、共同経営者の張林も同年生まれである(彼らを「85後世代」<1985年以降生まれの世代>と呼ぶ)。2人は、北京航空航天大学北海学院の同級生だった。そして、唐軍は弱冠30歳未満で富豪ランキングに登場する“スーパーアイドル”だったのである。
 さて、倒産直前の3月15日、東莞市政府が彼らを表彰していた。あたかも、市政府が「団貸網」の信用を裏書きした形である。
 ところが、すでに「団貸網」の経営状態は悪化していた。市政府が表彰してから半月も経たないうちに、「団貸網」は倒産している。その短期間内で、「団貸網」へ投資した人もいた。怒り心頭である事は想像に難くない。
 3月27日、唐軍と張林は、公安当局に自首した。唐軍らは、「不特定多数から違法に資金集めをした疑い」(日本の「出資法違反」容疑に相当)で収監された。なお、その後、関係者44人が逮捕されたという。
 翌28日、「団貸網」は破産を宣言し、同日、取引を停止した。取引停止直前の2日間(3月25日・26日)で株価が暴落し、約12億元(約200億円)が消失した。
 当然、会社が倒産すれば、出資者への利子はおろか、出資金さえ返済できない。
 4月6日、怒った出資者は、東莞市でデモを行った。
 市政府付近には2つの地下鉄の駅があるが、当日、その入口は全て封鎖された。また、市政府周囲約50メートルは多数の警察官に包囲されていた。そのため、大部分の被害者達は、市政府や体育館には近づけなかった。今回のデモは当局によって完全に封じ込まれたのである。
 他方、微博等のSNSは、全て封鎖された。また、ネット上にビデオがアップされても、すぐに削除されている。
 結局、市政府は「団貸網」出資者約1000人のデモ対し、相当数の警察官を出動させて弾圧した。そして、3 人を逮捕している。
 「団貸網」は私企業とはいえ、市政府がしっかり監督すべきではなかったか。同社を倒産直前に表彰した当局にも責任があるだろう(因みに、中国共産党幹部が、しばしばこのような事件に深く関与している事が多い)。
 習近平政権は、相変わらず庶民の抗議デモを力でねじ伏せている。北京は、抜本的改革を全く行わず、単に抗議行動に対し武力弾圧する。これで、果たして、習政権は今後もつのかと疑問を抱かざるを得ない。