再考:F35は誰のものか

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政策提言委員・前空自補給本部長 尾上定正

 前稿(「F-35Aは誰のものか?」)以降、F-35に関して2つの大きな出来事があった。昨年末、最終的にF-35Aを105機、STOVL機(F-35B)を42機の合計147機を取得することが決定されたこと。そして、4月9日、国内組立(FACO)初号機79-8705号機が夜間訓練中に墜落、機体の一部は回収されたものの乗員はまだ行方不明であること。岩屋防衛大臣は、事故後一連の会見で ① 事故機を引き上げ、空幕に設置した航空事故調査委員会で事故原因の究明に全力を挙げる ② その際、保全すべき機密を多数有する機体というF-35Aの特殊性を踏まえ、我が国が主体になりつつ、米国の協力・支援を得て原因究明を進める ③空自が保有するF-35A(12機)の飛行再開は、FACOの試験飛行を含め、飛行安全が確保されるという判断が前提である ④ 現時点(4月20日、「2+2」後の臨時会見)において、調達計画を変更する具体的な情報はないので、取得の方針や整備計画、配備計画を変更する予定はない―と述べている。いずれの方針も直ぐに困難な現実に直面することとなろう。

事故で失われたものを活かすこと
 岩屋大臣の方針を論じる前に、空自OBとして筆者は、今回の事故を機会にF-35事業を徹底検証し、空自にとって事業の最適化を図ることが、事故によって失われたものを活かす道であると指摘しておきたい。事故後の報道では、配備後1年に満たない150億円の機体が損失したことへの批判的な記事が多くみられたが、飛行時間3,200時間を超えるベテラン戦闘機パイロットを失ったことこそ、痛恨の極みである。事故機の操縦者の証言が得られないことは原因究明に大きな壁となることは間違いなく、飛行再開の前提となる飛行安全の確保の判断も難しいものとなる。これらの困難を克服し、一刻も早くF-35を空自の血肉として戦力化することを願ってやまない。そのためには、合理的な思考と日本の国益を基準とする判断が必要である。

原因究明の限界
 原因究明には事故機の操縦者の証言が最も重要となる。今年2月に起きたF-2の墜落事故では、発生から1週間後、航空幕僚長が取材に対し、脱出した操縦者の証言から「操縦が適切に行われなかった可能性が高い」と説明した。4月15日の時事通信によると、事故機の機体の大部分とフライトレコーダーが水深約100メートルの海底から回収され、空自はフライトレコーダーを解析し、事故原因の調査を進めるとされる。操縦者の証言をデータで裏付けるためである。

 今回のF-35事故では、僚機の操縦者等の証言や今後引き上げられる予定の機体から得られる飛行情報、操縦者の音声記録等の様々な情報が解析され、事故に結びつく要因が分析されることとなる。事故機操縦者が「訓練中止(Knock it off)」を宣言していることから、何らかの異常があったものと推測される。が、その異常が機体か、操縦者の心身か、あるいは乱気流等の外的環境等その他の要因なのか、決定的な原因究明には時間がかかり、最終的に特定できない可能性も高い。空幕の航空事故調査委員会は専門的なノウハウを蓄積しており、規則上、事故発生後4ヵ月以内に報告書を提出する予定なので、それまで無責任な憶測は慎みたい。

機密情報の制約
 F-35が機密の塊であり、FMS(有償援助)調達国である日本がアクセスできる技術データは極めて限定的であること、米軍始め運用国との情報共有が課題であることは前稿で指摘した。一部には、FDR(フライトデータ・レコーダー)の解析など、ロッキードマーティン(LM)社に依存せざるを得ず、最後はアメリカ主導の原因究明にならざるを得ないという懸念がある。事故後、米軍が異例の捜索活動等を行ったことも機体の秘密保全への配慮であり、かかる懸念を惹起する一因となっている。この点については、「F-35Aの特殊性を踏まえ、我が国が主体になりつつ、米国の協力・支援を得て原因究明を進める」という岩屋大臣の方針を貫徹してもらいたい。

 F-35は基本的に完成機輸入であることから、日本国内に事故調査に必要な技術基盤は存在せず、製造プライムであるLM社の協力は不可欠である。日本は共同開発国ではないため、技術データへのアクセスは限定的であり、機体の改修・不具合の是正等については、米軍の管理部門(JPO : Joint Program Office)やLM社の方針・指示に従わざるを得ない。一方、F-35に限らずF-15等その他の機体であっても、FDRの解析や機体及び搭載装備品等の調査は、通常製造企業が実施する。国内企業がライセンス生産している場合でも、オリジナルの開発・生産企業の技術支援が必要である。従って問題は、日米のいずれが主導するかではなく(米側も日本に協力・支援するという方針を明示している)、事故調査に必要なデータが、日本への開示が制限されている技術情報であっても事故調査委員会には適時適切に提供されることである。このために必要な手続きや条件等を日米で速やかに交渉・調整する必要がある。

 F-35の20年近い飛行の歴史で、A型の墜落事故は今回が初である(STOVL型のF-35Bは昨年9月28日に墜落している)。日本のみならず、F-35を運用している各国にとって、事故原因の究明は重大な関心事項である。米空軍トップのゴールドフィン参謀長は、4月19日、時事通信の取材に対し、「インド太平洋地域と北大西洋条約機構(NATO)にF-35の課題や相互運用性を話し合う『運用国グループ』があり、こうした他の運用国のためにF-35の性能に関する機密情報を守ることが大切だ」との見方を示した。日本は「運用国グループ」に所属しているはずなので、F-35A初の事故当時国として、情報保全に留意しつつ、JPOとLM社によって再発防止に必要な措置が適切に取られるよう、事故調査に係る情報を運用国に提供する責任があろう。

飛行再開の条件
 航空事故が起きた場合、最も懸念されるのは同じ原因による事故の再発である。空自が保有するF-35の飛行を停止しているのも機体に原因がある場合には是正処置が必要となるからであるが、今回の事故のように原因究明が長期間にわたり、最悪特定できない場合、岩屋大臣の言う「飛行安全が確保されるという判断」は誰がどのような基準に基づいて行うのか。

 ゴールドフィン空軍参謀総長は前述の取材で、航空自衛隊F-35の墜落事故に関し、安全性には「絶対の自信を持っている」と述べ、今後の運用や調達方針に影響はないという見通しを明らかにした。事実、米空軍等は事故後もF-35Aの飛行訓練を継続しており、中東に派遣されているヒル空軍基地第4戦闘飛行隊所属のF-35Aは、4月30日、米空軍初の実戦任務に投入された。

 言うまでもなく、防衛省・空自は、飛行再開の時期や再発防止について主体的に判断しなければならない。飛行停止期間が長引けばパイロットの技量低下や部隊建設の遅れに繋がり、FACOの製造・納入計画にも影響が出る。飛行再開には、F-35が配備されている地元だけではなく、国民全体の理解を得ることが必要である。そのためには、事故調査を迅速に進めることはもちろん、調査計画やその進捗状況を適時に公表し、F-35の安全性に関するデータや他国の運用状況等を最大限入手し、かつ飛行停止の及ぼす否定的な影響や段階的な飛行再開の手順・再発防止策等を分かり易く説明することが必要だ。国益に基づく合理的な判断への国民の支持が飛行再開には不可欠である。

事業計画の検証
 最後にF-35事業の検証の問題だが、そもそも、昨年末の取得機数の変更(42機から147機へ)については、空自が構築すべき将来の戦闘機体制に基づく必要性が十分説明されていないので、事故とは関係なく、F-35事業全体の評価が行われるべきであろう。その中には、F-15が200機から100機体制に変わること(非近代化改修機の約100機はF-35(B型を含む)で代替)の影響も含まれなければならない。特に、F-35の調達及び後方支援がすべてFMS契約となることから、F-15の機体、エンジン、構成品の修理等を担当する国内防衛企業への打撃は大きい。また、F-35に投資する予算を別の使途に振向けた場合の機会費用についての費用対効果も説明されるべきである。防衛上保全すべき情報の存在を認めた上で、国民に対する説明責任については不十分と言わざるを得ない。

 この点に関し、米国防総省は2020年度予算案(2019年3月12日に公表)で、「F-15EX」戦闘機(対地攻撃型F-15Eの能力向上機)8機の調達を計上し、2024年度までの5年間で、80機を調達すると発表した。制服トップのダンフォード統合参謀本部議長は、F-15EXの機体価格はF-35Aと同程度ながら、維持運用経費はF-35Aの半分以下、機体寿命は2倍以上と説明した上で、米空軍における将来の主力戦闘機がF-35Aであるという方針は変わらないものの、現状の限られた予算のなかで戦闘機の量を確保するには、F-35AとF-15EXを混合運用することが正しい選択と判断したと議会証言している。また製造企業のボーイングは、濃密な防空網を持つ敵地への攻撃などのF-35Aでなければ実施困難な作戦があることを認めた上で、必ずしもF-35Aを投入する必要の無い作戦環境では、兵装搭載量、航続距離、速度性能でF-35Aを上回るF-15EXを投入し、また必要に応じてF-35Aと連携することで、より柔軟な戦闘機の運用能力が得られるとの見解を示している。空自の見解を聴きたいのは筆者だけではあるまい。
 
 さて、今回の事故に戻り、岩屋大臣の言う「調達計画を変更する具体的な情報」とは何であろうか。事故調査の結果、仮に機体の欠陥が見つかったとしても、是正の処置がとられれば調達計画に影響はない。新規導入の機体の場合、そのような改修や改善は通常行われることである。但し、空幕の事故調査に必要な「具体的な情報」が適時適切に入手できないようであれば、F-35全体の「取得の方針」を見直すべきであろう。失われたものを活かすためにも、曖昧な妥協は許されないと考える。