基地問題で揺れ続ける沖縄
―新安保法制定で集団的自衛権の解釈問題は消滅―

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会長・政治評論家 屋山太郎

沖縄の基地問題の根幹は「普天間飛行場を辺野古の海を埋め立て移す」ことで推移してきた。前任の仲井真弘多知事は「辺野古埋め立てを承認」し、首相は「普天間を5年以内に運用停止にする」と確約した。この約束に基づいて国は埋め立てを開始したが、14年11月、翁長雄志氏が「埋め立て反対」を旗印に選挙に当選すると①埋め立て許可を取り消す ②埋め立て工事許可も取り消すと言い出した。「今後も辺野古に新基地を造らせない」という公約の実現に向けて動き出した。
 このため国は「県の承認を代執行」するという訴訟を起こし、これにとことん反対する翁長知事側とが訴訟合戦に突入した。裁判所が和解勧告に動き出し、国はこれを受け入れて辺野古の埋め立て工事を中止した。この「やる」「やめろ」の言い合いは、ここ20年続いてきた国と沖縄県の諍いの繰り返しである。
 安倍首相は沖縄の米軍基地問題を解決し、いよいよ強気で初志貫徹する意志を見せていた。「やれやれ」と思っていたところに、歴代首相と同じ腰砕けである。翁長知事には海面埋め立てに当たって「反対の書面」を出すと訴訟は何年も長引くとの思惑があるようだ。安倍首相にも一旦和解した方が早いという判断があるだろう。しかし翁長氏が狙っているのは県民感情の重視とか住民意識の尊重といったものではない。
 国会で新安保法を審議している中、全国で早期の「安保成立決議」を行ったのは沖縄県の石垣島村議会と東京都の小河原村議会だ。住民は目前に危機を感じ、軍事力の増強を歓迎しているのである。沖縄の米軍基地削減に向けて政府は既に北部訓練場の一部返還を実行しようとしている。96年の日米・区域特別行動委員会(SACO)合意で7500ヘクタールのうち4000ヘクタールの返還が決まった。変換区域面積は県全体の米軍施設の2割近い面積を占める。地元の国頭村と東村は早期返還を求めているが、翁長知事は住民の違憲など聞く耳を持たず、さながら天上天下唯我独尊だ。
 国防というのはどの国でも国家の専権事項であって、まず「国家の意志」が重視されねばならない。翁長氏は米国政府に出かけて直接交渉に取り掛かったが、同盟国の政府が相手の地方知事の要望を直接聞くわけにはいかない。翁長氏は中国政府にも出向くと言う。中国政府が「沖縄には手を出さないから」と言ったとしても、その約束を担保するものは何なのか。
 翁長氏は「オスプレイ反対」を叫んでいたが、オスプレイの能力が高度で、中国は尖閣を奪取するのに、こんな邪魔なものはないと思っているだろう。沖縄の反戦活動家は翁長氏も含めて集団的自衛権は行使できない権利であると言ってきた。この「反戦、基地反対」の根拠にしてきた。この解決は国連憲章から見てあり得ない解決だったが、漸く改まった。国家の最高機関が新安保法を制定して集団的自衛権の解釈問題は消滅したのである。


(平成28年4月27日付静岡新聞『論壇』より転載)