中国の三戦(世論戦・心理戦・法律戦)
―米国防省ネットアセスメント室の資料から―

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政策提言委員・元空自航空教育集団司令官 小野田治

 ご紹介に預かりました小野田です。航空自衛隊を4年前に退官しました。私をご存知の方々は何故、私が中国の本質について話ができるのかと思われるかもしれませんが、それには若干の経緯があります。先程の古森先生のお話と通じるところがありますが、古森先生の方が経験知識共に私より深いので、質疑応答は古森先生の方にお願い致します。

アメリカで見た中国の存在感
 アメリカの国防総省にオフィス・オブ・ネットアセスメント(ネットアセスメント室)という国防長官の直接のアドバイザー機関があります。1973年に設立され、創設以来、アンドリュー・マーシャルという方が昨年まで、43年間という長きに亘り室長を務めてこられました。ネットアセスメント室では主としてアメリカの有識者、外部の有識者の様々な知見が活用されています。その中で今日皆さんにお話するのは2013年5月にネットアセスメント室の為に作られた報告書で、ケンブリッジ大学国際政治学部のステファン・ハルパ―教授の「CHINA:The Three Warfares」という550ページに及ぶ長文のものです。この中には中国がこれまでどのような三戦(世論戦・心理戦・法律戦)を展開してきたか、米軍の作戦にどのような影響があるのか、これに対してアメリカはどう対処するのかということが書かれています。
 私は2013年から15年までの2年間、アメリカのハーバード大学に客員研究員として在籍しました。その時、発表されたばかりのこの文書を知り研究をしてみようと思った次第です。私がアメリカに行って、何故こういう問題に関心を持ったかと言いますと、ハーバード大学には海外からの留学生がたくさん来ていまして、一番多いのが中国人で20%、2番目は韓国、3番目がインド、そして4番目に漸く日本とシンガポールがほぼ同率で6%という現実を見て、日本人の存在感について危惧を覚えたからです。日本人のプレゼンスがどんどん減る一方で中国人のプレゼンスは着実に増えています。私はアジアセンターという大学内の研究所に在籍していましたが、同じ建物の同じフロアには、フェアバンクセンターという中国研究所がありました。1階フロアの多くがフェアバンクセンターで、私の部屋だけポツンと離れ小島のようにありました。周りは皆、中国研究者ばかりです。米国と中国をまたいで中国研究をしている人達がたくさん居て、更に中国から大勢の研究者が訪れてきます。2階には日本研究のライシャワーセンターがあり、日本から在外研究で来られている大学の先生達が在籍していますが、ハーバード大学の中での日本のプレゼンスというのは非常に限定的でした。