はじめに
2016年10月末に赴任先のワシントンDCを発ち、日本に出張した。日本では、米国出国直前の大統領選挙の状況から「クリントン政権の安全保障政策と戦略」という題で資料を作成し、各所でブリーフィングを実施するという「暴挙」?に及んでしまい、日本出国直前にまさかのトランプ大統領の誕生を見届けて、11月10日に「失意」(自分の予測が外れたという意味で)の内に戻ってきた。クリントン候補に92.8%投票したDCでは、さぞや大変な状況かと思い(仲間を探す思いで?)VETERANS DAY HOLIDAY明けから情報収集に回った。そしてTHANKSGIVING DAY HOLIDAY前に本稿を執筆している。DCの現状を一言で表せば、新たな現状を受け入れて、したたかに、まるで何事も無かったかのように平常を取り戻しつつある。勿論、クリントン政権では主要閣僚間違いなしと自他ともに認めていたCEOを有するシンクタンクはお通夜の状態になっていたり、俄然元気になった老舗の保守系シンクタンクなどあるものの、多くのNon-Partisan(中立)のシンクタンクでは、トランプ大統領誕生阻止の行動をとった大御所、中堅を含めて、「次期政権の○○政策」、「次期政権の○○における課題」といったテーマで連日多くの聴衆を集めている。ということで、筆者もDCスタイルで「クリントン」を「トランプ」に置き換えて論じてみたいと思う。
1 新政権で変わるもの
米国では4年若しくは8年に1回必ず政権交代し、それに伴う大統領が決定権を持つ人事の刷新によって、政権に入っていた者が、シンクタンクや大学、ビジネス界に戻り、逆に各界から政権入りするというシステム(「回転ドア」)が作動する。このシステムは、言わば民主的・平和的革命のようなもので、このシステムが、冒頭に述べたDCの「平穏さ」の大きな要因であろう。今回の政権交代を例にとれば、オバマ政権の責任で「政権以降プロセス(Presidential Transition Process) 」が策定され、2016 年5 月から活動が開始されている。これによれば、大統領選挙の翌日11月9日から新政権(移行チーム)に対して、各省庁のレビューチームがブリーフィングを開始することになっている(新政権側が省庁に出向きブリーフィングを受ける形式であり、省庁側は選挙前からブリーフィング資料を準備して待機する。筆者の帰国時点では未だトランプ政権側は受けていない模様であった)。