「リベラル国際主義」の動揺と日本の将来

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政策提言委員・拓殖大学海外事情研究所教授 佐藤丙午

「リベラル国際主義」の動揺
 米国のトランプ大統領の登場以降、国際社会において、米国が第二次世界大戦以降積み上げてきた「リベラル国際主義」の崩壊が指摘されるようになった。
 トランプ大統領は就任直後に発表した一連の大統領指令で、TPPからの離脱や不法移民の強制返還、NAFTAの再交渉などを表明し、リベラルな規範と多国間での国際協調を基盤とした国際枠組みの意義に疑問を投げかけた。トランプ政権からは、米国と国連の関係や、同盟関与に対する条件付けなど、米国がこれまで「あたりまえ」に果たしてきた秩序維持の役割を見直す方針が提起され、国際社会はこれに動揺した。
 政権の陣容が固まり、トランプ大統領が外交・安全保障政策での経験が増えていく中で、トランプからは過激な言説が消え、選挙期間中の有権者との約束に忠実であろうとする姿が見えてきた。トランプ自身、どれだけ確信をもって政策を提案していたのかも分からない。選挙期間中の過激な政策提案が、トランプ大統領の「政策目的」ではなかろう。寧ろ、過激な言説で、所謂「忘れられた国民」の支持をつなぎ留め、それを基盤として政治的野心の実現を目指すことが、トランプ個人の利益になるのであろう。
 しかし、トランプによって解放された既存の政治に対する米国民の不安や不満の本質は何であり、それが今後、どこに向かうか注目すべきである。

米国の「反知性主義」
 米国では、既存のエスタブリッシュメントが支配層へと固定されないように、選挙を通じて社会変革を引き起こす、「反知性主義」が力を持つことがある。また、社会経済構造の変化を受け、選挙を通じて政治構造が周期的に変化する現象も知られる。アーサー・シュレシンジャーは、米国政治の30年サイクルを唱え、その間に「大きな政府」と「小さな政府」の揺れ動きの存在を指摘した。
 所謂「トランプ現象」が意味するものは、国内政治と国際政治でも大きく異なるであろう。しかし、国際政治の面だけ取り上げても、米国が構築し、その最大の受益者であったリベラル国際主義を、トランプが屠る言説を繰り返したにも拘わらず、大統領に当選したのは興味深い。トランプの言説に対して、保守派本流を始めとして多くの国民が嫌悪感を表明している。にも拘わらず、トランプが大統領に当選したことには意味があり、それは米国政治がこれまでのサイクルから、別のサイクルへの移行しようとしていることを示唆すると考えられる。