日本の防衛力強化と役割の拡大
―専守防衛にまず必要なもの―

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防衛省防衛研究所主任研究官 下平拓哉

はじめに
 2017年2月12日、北朝鮮は世界が注目するトランプ米政権発足後初の日米首脳会談直後に合わせて、新型の弾道ミサイル発射実験を行った[1]。2017年2月22日、中国は南シナ海・スプラトリー諸島で造成中の人工島において、長距離地対空ミサイルを配備できる20 を超える構造物の建築がほぼ完了した模様であり、ティラーソン(Rex Tillerson)米国務長官は、ロシアのクリミア侵攻に匹敵するものと警戒を強めている[2]。2016年3月には、パラセル諸島のウッディー島において、射程400km を超える地対艦ミサイルYJ-62も配備されていることから[3]、今後、南シナ海の軍事拠点化が益々加速されるものと思われる。
 これらの行動は、日本を取り巻く安全保障環境がより一層厳しくなりつつあることを示している。それは、北朝鮮の核・弾道ミサイル能力も中国の接近阻止/領域拒否(A2/AD)能力も、時間の経過とともに確実に向上しており、いつでもその能力を発揮できる意思があることを意味している。
 2017年2月15日、安倍首相は、参院本会議において、日米首脳会談の成果を踏まえ、「南西地域の防衛体制や弾道ミサイル防衛能力の強化に加え、宇宙、サイバーといった新たな分野でこれまで以上の役割を果たす。」[4] と述べ、防衛力の強化と役割の拡大の方針を明らかにした。安倍首相が言明する防衛力の強化と役割の拡大は、今後どのように具体的に進めていくべきであろうか。
 2013年12月17日に閣議決定された
 日本初の「国家安全保障戦略」によれば、国家安全保障の第1 の目標に、「我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために、必要な抑止力を強化し、我が国に直接脅威が及ぶことを防止するとともに、万が一脅威が及ぶ場合には、これを排除し、かつ被害を最小化すること。」[5] と規定されている。国家安全保障の基本理念に掲げている「専守防衛」に徹し、この国家目標を達成するためには、具体的に今何が欠けているかを明らかにすることが急務である。
 本稿は、アジア太平洋地域における安全保障環境がどのように変化しているかを踏まえ、「防衛計画の大綱」に基づき日本が進めている「統合機動防衛力」と現行の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」に対する分析を加えることによって、今後の日本の防衛について捉えなおすものである。

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[1] 首相官邸「北朝鮮による弾道ミサイル発射事案について(1)」2017 年2 月12 日。
[2] “Exclusive: China finishing South China Sea buildings that could house missiles – U.S. officials,”Reuters, February 22, 2017.
[3] “Imagery suggests China has deployed YJ-62anti-ship missiles to Woody Island,” IHS Janeʼs Defence Weekly, March 23, 2016, http://www.janes.com/article/ 59003 /imagery-sug-gests-china-has-deployed-yj- 62 -anti-ship-missiles-to-woody-island.
[4] 『 毎日新聞』2017年2月15日。
[5] 内閣官房「国家安全保障戦略」2013年12月17日。