インドの超大国化を阻む3つの「闇」

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

はじめに
 インドは広大な国土と膨大な人口を擁する南アジアの大国である。国土面積は328万㎢、実に日本の8.6倍もある。人口に至っては13億人に達し、数年後には中国を抜いて世界で最も人口の多い国になる。紛れもなく「大国」と言ってよい。
 ところが、インドは「超大国」と言われることはないし、予見される将来においてそうなる可能性もない。何故か。まず、超大国と呼ぶには強大な国力、即ち圧倒的な軍事力と経済力を持っていることが必要条件になるが、今のインドの国力は世界レベルで見れば未だ脆弱と言わざるを得ない。軍事力こそ世界4位(グローバル・ファイアーパワー2017によるランキング)だが、それは136万人という世界最大規模の地上兵力(+予備役兵284万人)の評価から来るものであり、空軍・海軍の戦力は米国や中国に大きく見劣りする。特に兵器の老朽化が著しく、今なお旧ソ連製のものが主流で、最新鋭兵器は全体の8% というデータもある。では経済力はどうかというと、国民総生産(GDP)では世界第6位で、米国の8分の1、中国の5分の1以下、日本、ドイツ、英国のそれをも下回る。特に一人当たりのGDPが1892ドル(世界142位;2017年)に留まり、中国(8,643ドル)にすら大きく水をあけられている状況はインドの国力評価を下げる要因になっている。
 もう1つ、「超大国」と見做されるために必要な重要な要件がある。それは普遍的な国家理念と価値観を持ち、国際秩序形成の中軸的な存在になっているかどうかという点である。インドは「世界最大の民主主義国家」と言われるが、規模はともかく国家理念としての民主主義を主導するのはやはり欧米諸国であり、第二次世界大戦後に独立したインドがその価値観を含めて民主主義国家群を代表する存在にはなり得ない。共産主義国家であったソ連や現在の中国は(今や色褪せているとは言え)共産主義・社会主義という一つの国家理念を代表し、そのイデオロギーを信奉する国家群が今なお存在している。その点、インドを「国家モデル」として、その傘下に収まろうとする中小国家群は見当たらない。これも超大国になるための「資格要件」を欠くと看做さざるを得ない。
 文化・宗教面での存在感はどうか。確かに、ヒンズー教は世界四大宗教の1つであり、10億人以上の信者を擁するが、その大多数はインド国内に住むインド人であり、キリスト教、イスラム教、仏教のような世界的な広がりを有さない。