対テロ予算肥大化の脅威を直視する

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コマツ・リサーチ&アドバイザリー代表 小松啓一郎

 前号まで2回に亘って、生物兵器、化学兵器、超小型核爆弾等、所謂、大量破壊兵器の脅威について見てきた。今回は、更に深刻で確実に直面せざるを得ない脅威として、我々自身の対応の仕方に潜む自壊要因について見てみたい。 
 それは、2001年9月11日の「米国中枢同時多発テロ」(9.11テロ)事件以降の「対テロ戦争」等に投入された予算の肥大化という脅威である。この種の脅威は経済情勢への悪影響から始まり、最終的には安全保障上の危機を引き起こす。 
 典型例は、米国経済がIT危機で不調だった2000年代初期に開戦となった対アフガン戦争やそれに続く対イラク戦争の最中、景気対策で推奨された「今買って!支払いは後で!」(buy now, pay later)であった。サブプライム・ローンのような金融詐欺行為が米連邦準備制度理事会(FRB)の支持下で横行し、2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻から世界的な「リーマン危機」に突入してしまった。米国では当然、本格的な「対テロ戦争」の継戦が不可能となり、2011年にはイラクからの完全撤退に追い込まれた。その後はアフガン撤退も検討されてきたが、「対テロ戦争」の相手と目するタリバン勢力等からの攻撃が緩まず、今度は撤退の延期に追い込まれて今日に至る。 
 更に、2014年6月10日にはイラク北部の大油田地帯として知られるモスルが新手のイスラム原理主義組織「イスラム国」(ISIS)に占領されてしまった。このため、イラクやシリアの内外では欧米諸国のみならず、トルコやロシアまでが巻き込まれる泥沼戦争の現出となっている。 
 本稿でも「米本土安全保障問題(homeland security)の最高権威の一人」(米下院・国土安全保障委員長)とされる米軍大佐による情報や指摘(前稿までの2稿を参照)に加え、他の専門家の分析を踏まえながら問題点を考えてみたい。 

ミサイル網依存の心理的習性は「完全に時代遅れ」 
 あの日、ワシントンDCで丸テーブルを前にした大佐の発言は、問題の本質をズバリと突いていた。 
 「特に軍事関係者の間には戦車やミサイル網を充実しないと安心できない心理的習性を持った人々もいます」 
 「しかし、それは完全に時代遅れです」 
 筆者は、本当に驚いた。 
 と言うのも、前号までに述べたとおり、この紳士は最前線で繰り返し出撃した「現場の叩き上げ」であると同時に、軍の上級管理職にまで昇格した「軍事分野」のプロ中のプロだからである。そのようなプロが言い切ったのだった。