4 新たな安全保障ダイヤモンド
国際政治学者であるカプラン(Robert D.Kaplan)は、著書『モンスーン (Monsoon)』において、インド洋における米国、中国、インドのバランス・オブ・パワーの変化を研究し、過去500年続いた欧米世界の優位性が緩やかに終焉に向かう可能性を指摘した*50。今後、インド・太平洋地域における安全保障と経済的発展を考えていく上で、様々な協力関係を模索していくことが必要であり、とりわけ同地域においてはASEAN諸国等の多国間の協力関係構築による安定した地域秩序構築が、益々重要となるであろう。中でも、サイクロン・ナルギスの経験を経て、民政移管したミャンマーは、政治的にも経済的にも重要な移行期にあり、ミャンマーの政治的かつ経済的な成功は、地域秩序の安定に大きな影響を及ぼすことは疑いない。中国は、「一帯一路」構想をもって、ミャンマーに対して支援を継続していく準備ができているとされるが*51、より重要なことは、欧米諸国がミャンマーとの協力関係を深め、ミャンマーを国際社会の重要な一員として歓迎できるように、国内外における信頼関係を構築していくことである。
そのために、日本が果たすべき役割は大きい。ジョージタウン大学のスタインバーグ教授によれば、米戦略国際問題研究所 (Center for Strategic & International Studies: CSIS)のレポート「日緬関係再来」において、米国の経済制裁下にあっても、日本がミャンマーに対して人道的支援と債務返済支援を継続してきたことを高く評価し、「日本が再びミャンマーに対する影響力を行使すれば、ミャンマーを中立的な立場に留めることができる」*52と、日本の影響力の大きさを指摘している。
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*50 Robert D. Kaplan, MONSOON: The Indian Ocean and the future of American Power, Random House, 2010, p. xii.
*51 Peter Banham, “Why Burma is the New Focus of International Relations,” A Little View of the World, November 13, 2012.
*52 David I. Steinberg,“Japan and Myanmar: Relationship Redux,” Center for Strategic & International Studies (CSIS) Japan Chair Platform, October 15, 2013.