テロ脅威と移民難民問題を抱える欧州諸国
―ヨーロッパはどこへ向かうのか?―

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研究員・S.Y. International 代表 吉田彩子

 ヨーロッパが不安な状態に陥っている。現在特に注目されているのは英国(シェンゲン圏に入っておらずユーロも導入していない)がEUに残るかどうかの問題だ。昨年のギリシャ財政危機の際には “Grexit” と呼ばれ、ギリシャがユーロ圏から出ることになるのか、と騒がれたが、ギリシャ問題が遠のいた次に訪れたのが“Brexit”(British exit)である。Brexitはヨーロッパの価値観を揺るがすことになりかねない問題となっており、EUのあり方を大きく見直す機会となっている。 
 2月18、19日には英国とEU諸国がEUサミットで集まり、EU-英国関係の改革案についても交渉が行なわれ、19日夜には欧州理事会のドナルド・トゥスク(Donald Tusk)議長が「英国がEUに留まる方向で全員一致で合意に至った」と発表した。これによりEU28ヵ国が英国とEUの新しい関係に合意したことになる。キャメロン首相は「英国のEUにおける “特別な地位” を獲得した」と述べ、これからは、イギリスで6月23日に予定されている国民投票に向けて、英国民が英国のEU離脱を支持するかしないか、大きく注目される。 
 EUはヨーロッパの平和維持や経済・社会的発展を目指す目的を持ち、2013年7月にはメンバー国が28ヵ国となった。統一した通商政策を持つ世界最大の単一市場であり、単一通貨ユーロを持っている(19ヵ国が導入)。しかし、一方で財政政策は統一されていないため、システムが複雑なことなどがしばしば指摘されている。“欧州懐疑主義か欧州連邦主義か?” などの議論は頻繁にされており、“国家の主権をどこまで超国家主義的なEUに手放すのか?” が問題だ。 
 現在欧州が不安定な状態に陥った原因の中に、高いテロ脅威と移民難民問題がある。 
 テロに関しては、近年では2014年5月にベルギー・ブラッセルのユダヤ美術館で起きたテロや2015年にフランスで起きた2件の大きなテロ(1月と11月 )、2015年2月にデンマークで起きたテロなどイスラム過激化した若者による事件が発生している。その他テロ未遂事件を含めればかなり多くの事件が起こった。 
 これらのテロに関しては、“近年のテロが以前のような形でないこと”、“非対称戦の中で現在の対テロシステムがうまく対応していないこと” などが指摘されているが、特に問題となったのは、これらのテロリストが欧州諸国の国籍を持つ若者で、イスラム教サラフィージハード主義に洗脳されシリア-イラクなどの戦闘経験を持った後、自国でテロを起こす(または起こそうとする)という実態があることだ。