集団防衛体制強化に向けたEUの動きと日本

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

<div><font color="#4e4e4e"> 欧州連合(EU)は経済共同体であり、安全保障・防衛問題には直接関わらない。これが日本人一般の共通理解のようだが、実は、過去四半世紀の間、EUは遅々としつつも着実にこの分野での協力・連携を深めてきた。そして、今、英国のEU離脱プロセスが混迷を続ける中、そのネガティブな影響は既に各方面に表れているが、EUの集団的な安全保障協力を進める上では寧ろ良い環境が生まれつつあるのではないかとの見方すらある。</font></div><div><font color="#4e4e4e"> 英国がEUに加盟したのは1973年で、その関心は専ら単一市場へのアクセスと金融自由化にあり、それ以外の協力分野における統合の深化には常に距離を置いてきた。共通通貨ユーロは採用せず、人の移動の自由を定めたシェンゲン協定には不参加を決め込んだ。そうした英国にとってEUが集団防衛体制強化の方向に動くことは論外であり、欧州の防衛は北大西洋条約機構(NATO)の枠内で推進されるべきであるとの立場をとってきた。このことが1993年のマーストリヒト条約で欧州外交安全保障政策(CFSP)の確立が謳われたにも拘わらず、EU内での集団安全保障論議が深まらず、具体的協力が今一つ進まない原因になった。勿論、冷戦の終結とソ連の崩壊を受けて欧州諸国の防衛面での危機意識は大きく後退し、安全保障に金をつぎ込むことに消極的空気が蔓延したという事情はある。こうした空気は、ユーゴスラビアの瓦解によるバルカン危機や9・11後のイラク・アフガン問題の存在にも拘わらず大きく変化することはなかった。</font></div><div><font color="#4e4e4e"> これらの問題に対処すべきは米国中心のNATOであり、EUが果たすべき役割は小さいというのが共通認識であったろう。しかし、2014年にロシアがクリミア半島を併合し、中東で「イスラム国(IS)」の脅威が増す中で、欧州諸国が自己の防衛に寄せる関心は再び強まる傾向にあり、中東や北アフリカから押し寄せる難民への対処も「防衛問題」の1つとして認識されつつある。これに拍車をかけたのが「米国第一主義」を掲げるトランプ米政権の登場で、欧州の防衛をNATOの枠内で米国に依存してきたEU諸国に「自助努力」の必要を強く意識させることになった。幸か不幸か、EU内での安全保障論議を阻害してきた英国がEUから離脱する。事実、英国は2016年の国民投票後はEUの安全保障政策をめぐる議論に実質的に加わっておらず、2017年以降はフランスのマクロン大統領が主導する形で協力強化が図られつつある。今、EUは、多くの課題と困難をかかえつつも、単一市場と経済社会協力の共同体という従来の姿から集団防衛組織という新たな顔を加えた包括的な統合体に変貌し始めている。</font></div><div><br></div>