中国のサイバー戦略と活動
―サイバー空間で進む軍民融合―

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特別研究員 下平拓哉

はじめに
 2018年12月、米司法省は中国のハッカー集団APT10所属の中国人2人を、2006年から45社以上の米国企業や研究所等から大量の情報を盗んだとして起訴した。そして、APT10は中国国家安全省と協力して、日本を始め米英仏独等など12ヵ国以上のネットワークへの侵入に成功しているとの衝撃的な報告がなされた1。また、2019年6月には、中国政府の支援を受けたと見られる複数のハッカーが、世界の通信大手の少なくとも10社の携帯電話ネットワークに侵入していたことも明らかになっている2。 
 世界が注視する中国のハッカー集団は、中国政府とのつながりが指摘されているが、近年、中国政府と中国人民解放軍におけるサイバーをめぐる動きが顕著となってきている。
 2019年7月24日、中国政府は4年ぶりとなる国防白書「新時代の中国国防」を発表した。今回の国防白書は、2015年末から実施されている中国人民解放軍の改革途上との特徴を有しているが、その改革の目玉の1つが、宇宙空間、サイバー空間、電磁空間における戦力を所掌する戦略支援部隊である3。戦略支援部隊は、将来の「情報化(信息化)戦争」を戦い、勝利するための中国人民解放軍の能力向上に寄与するものであるが、中でも統合作戦能力の向上とともに、軍民融合によって優位性を確保することが企図されていることは見逃せない4
 元英情報局秘密情報部副長官で英国際戦略研究所シニア・アドバイザーのインクスター(Nigel Inkster)は、著書『中国のサイバーパワー』において、台頭し続ける中国、そして世界一流の軍隊を目指す中国人民解放軍にとって、サイバーは欠くことのできない領域であり、中国はその影響力を及ぼすことができる、よりグローバルなサイバーセキュリティーやサイバーガバナンスを有したサイバー中国圏(cyber Sinosphere)を構築していくと警鐘を鳴らしている5
 本稿では、まず中国の最新の国防白書におけるサイバーの位置付けを踏まえた上で、次に中国のサイバー戦略について分析を加え、戦略支援部隊とサイバー民兵の関係を整理し、中国サイバー集団の特徴について論ずることを通じて、中国のサイバー戦略と活動の全体像を明らかにする。

1 国防白書におけるサイバーの位置づけ
 中国の最新の国防白書「新時代の中国国防」は、1998年以降10冊目を数え、全文約2万7千字で、本文は、国際安全情勢、新時代の中国防御性国防政策、新時代における軍隊の使命任務履行、改革中の中国国防と軍隊、合理的で適度な国防支出、人類運命共同体構築への積極的奉仕など6つの章に分かれている。