米中「新冷戦」の軍事的評価

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政策提言委員・前空自補給本部長 尾上定正

はじめに
 COVID-19パンデミックは現在進行形であり、まだ終息は見えない。コロナ後の世界がどうなるかは勿論、その甚大な影響について評価することも時期尚早であり難しい。一方で、コロナ禍は、戦後日本の繁栄と平和が大きく依存してきた米国主導の自由で開かれた国際秩序の動揺と日本が築いてきた戦後社会の脆弱性を浮き彫りにし、早送りのように事態の変化を加速している。
 その中心にあるのが「新冷戦」とも言われる米中関係であることは間違いない。佳境を迎えている米国大統領選挙においても両陣営は競ってより厳しい対中政策を指向している。中国は感染封じ込めと経済回復でさらに自信を深め、コロナ禍で苦しむ諸国に対し「マスク外交」等を通じ中国モデルの浸透を図っている。従って、米中共に安易な妥協は難しく、現時点における米中関係の論点を整理することは、コロナ後の世界の安全保障を見通す上で有益かつ必要な作業である。
 日本にとって2020年は、終戦75周年、現行日米安保条約締結60周年という節目に、東京オリンピックを開催し、日本の新たな時代を開く年となるはずだった。新型コロナウイルスによってこの目論見は崩れ去り、逆に日本が抱える様々な問題が表面化し、否応なく向き合わざるを得なくなっている。政府の危機管理体制や保健衛生・医療、デジタルインフラ、サプライチェーン、更にはサイバー・セキュリティなど多くの分野で、積年の不作為や無関心・怠慢によって放置されたり、隠蔽されたりしてきた問題が一気に噴き出した観がある。安倍総理の突然の辞任によって日本の舵取りを託される後任総理の責務は重い。取り分け、コロナ後に予期される一層厳しい安全保障環境の中で日本が生き抜くためには、米中「新冷戦」の本質を理解し、変化のスピードに遅れることなく、変化に応じた体制への転換を図ることが必要である。
 本稿では、今後の日本の安全保障・防衛体制を検討する上で重要な前提となる米中対立の軍事的側面について、コロナ禍による影響を踏まえ、分析する。
 
1. 米中「新冷戦」の様相と対立の核心
〇 米中「新冷戦」の様相と米ソ冷戦との相違
 グラハム・アリソン教授は、覇権国と覇権に挑戦する新興国との間で戦争が起きる歴史の教訓を「トゥキディデスの罠」と呼び、米中がその罠に嵌る恐れが50%以上あると指摘した。そしてこの戦争を回避するためには、米国が重大な国益の再定義や同盟国への防衛義務の見直しにより、中国との勢力均衡を図る基本戦略を採用すべきと主張している。