東アジアの戦争と民族主義

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東京国際大学国際戦略研究所教授 村井友秀

戦争する国と戦争しない国
 国家の行動は政府の性格を見れば予想することが出来る。各国の政府にはそれぞれ得意な分野があり異なった性格を持っている。政府の性格とは民族主義を重視する政府、経済発展を重視する政府、民主主義を重視する政府などである。尚、民族主義、経済発展、民主主義を政府の正統性と言う。
 どのような性格の国が戦争をするのか。戦う兵士は自分が信じる大きな価値の為により小さい価値である自分の命を捨てる。自分の命よりも価値があるものがなければ戦争はできない。
 民族主義を重視する国家は戦争を躊躇しない傾向がある。このような国家では、民族は一人一人の国民よりも大きな価値を持っており、国民が自分よりも価値がある民族の為に命を捨てるのは当然であると教育される。従って、国民は自分よりも価値がある民族の為に命を捨てることを躊躇しない。
 尚、民族主義の民族とは、人間を外見(遺伝子)で分類した人種や、国籍で分類した国民ではなく、歴史的に形成された共通の運命を持っていると感情的に信じている人間の集団である。「民族はその構成員が激情的に、満場一致的にそうであると信ずるがゆえに民族である」と言われる。ユダヤ人は多くの人種で構成されているが、共通の運命を信じる1つの民族である。
 また、宗教も信者に、宗教は個々の信者よりも大きな価値があり、信者が宗教の為に命を捧げることは無上の善行であると教える。従って、聖戦に命を捧げれば天国に行けることを保証する宗教は強い戦闘力を持っている。日本でも戦国時代に最強の戦闘力を持っていたのは一向宗門徒であった。
 他方、経済発展を重視する国では、経済発展は国民の命よりも価値があるとは教育しない。金の為に命を捨てる者はいない。従って、経済発展を重視する国の戦争の敷居は高い。
 また、民主主義的な政府は、国民に民主主義の為に命を捨てろとは教育しない。民主主義国家の政府は国民の同意によって政権を維持しており、政府が政権を維持するために最も必要な資格は国民を説得する能力である。従って、民主主義国家の政治指導者は、外国との関係で問題が発生した場合にも、戦争より自分が得意とする説得で問題を解決しようとする傾向がある(規範モデル)。
 また、透明性の高い政策決定過程は誤解による戦争を防ぐことが出来る(構造モデル)。更に、民主主義的手続きは時間がかかり、「拙速を貴ぶ」戦争には適さない。