米新政権の国家安全保障戦略について考える

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政策提言委員・アジア・太平洋イニシアティブ上級研究員 廣中雅之

1. 2020年米国大統領選挙
 2020年12月7日現在、2020年米国大統領選挙は民主党のジョー・バイデンが選挙人の過半数を獲得して事実上当選を確実にしている。但し、共和党の現職大統領ドナルド・トランプは大統領選挙に違法行為があったとして法廷闘争を進めており、未だ大統領選挙の敗北を認めていない。従って、2021年1月20日のバイデン新大統領の宣誓式に向けて、共和党政権から民主党政権への政権移行プロセスが円滑に行われているとは言い難い。
 2020年米国大統領選挙を総括すると、昨年夏の世論調査では、バイデンへの有権者の支持率が、トランプよりも10ポイント以上高いとの結果が出ていた。トランプは劣勢ではあったが、選挙に決定的な影響を与える経済と雇用の安定の追い風があり、更に、強い米国を再建するための政策などについて有権者から十分な支持があると考えていたようであった。ところが、本年2月以降、全米に広がった新型コロナ(COVID-19)への初動対処の遅れが有権者の不満を増大させ、COVID-19感染拡大に伴う経済の低迷は後半戦でのトランプ再選のシナリオに狂いが生じる。加えて、人種差別の問題や軍隊の政治的な中立性の尊重など、社会正義に関するトランプの人格・姿勢についても有権者が疑問を持つこととなった。
 トランプは、信条としているアメリカ第一主義に基づく孤立主義や保護貿易主義にかかる政策や軍事力の強化と強硬な不法移民対策などの政策は有権者の心を掴み、また、回復基調にある経済の状況を背景に、バイデンを終盤で逆転できると確信して、激しい追い上げを行なった。バイデン陣営は、COVID-19対処に伴うトランプの失策を批判し、優位な支持率を維持する戦術をとり続けた。バイデンは、大統領候補としての資質の問題(高齢、政治判断が不適切)やスキャンダル(ウクライナ問題)などについてのトランプ陣営の激しいネガティブ・キャンペーンを跳ね返し、終盤の追い上げを何とか凌いだということであろう。
 本稿は、米国の新たな大統領が最終的にバイデンとなり、共和党に代わって民主党政権が誕生することを前提として論考を進めることとしたい。初めに、民主党政権の国家安全保障戦略に大きな影響を与える米国の思想的な潮流について基本的な事項を整理する。次に、あまり明らかにはなってはいないが、2020年大統領選挙キャンペーンでのバイデンの安全保障分野の選挙公約などを踏まえ、バイデン政権が指向する対外政策・戦略の方向性について考える。最後に、米新政権の対外政策・戦略の方向性に大きな影響を受ける日本の安全保障の課題に言及する。