2016年米国大統領選挙とアジア太平洋の安全保障

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防衛省防衛研究所主任研究官 下平拓哉

2016年11月8日、第45代米国大統領の座を争う大統領選挙が実施されるが、その行方は全く予断を許さない。現在、保守で大規模企業重視、規制緩和、小さな政府を進める共和党とリベラルで中小企業重視、貧困層救済、大きな政府を進める民主党、それぞれにおいて指名を獲得するための壮絶なレースの真最中である。共和党の指名を獲得したのは不動産王のドナルド・トランプ(Donald Trump)氏であり、民主党では、ヒラリー・クリントン(Hillary Rodham Clinton)氏が正に指名獲得に向けた山場を迎えているが、大方の予想は、この両名で次の大統領選挙が競われそうである。
 日本戦略研究フォーラムでは、去る1月19日、米国のランド研究所の代表団を迎え、日米の防衛戦略について約3時間に亘り戦略対話を実施した。 
 過激な発言で旋風を巻き起こしている政治経験も軍歴もない初の大統領か、米国史上初の女性大統領か。これから本格化する大統領選挙に向けての言動が、選挙対策だけのものなのか、米国の国益を考えたものであるのか、それとも世界の平和と安定に寄与するものなのかといった様々な物差しを持って、冷厳に判断していく必要があろう。 
 中国の台頭や北朝鮮の核、ミサイル開発の例を挙げるまでもなく、日本を取り巻くアジア太平洋地域の安全保障環境は厳しさを増している。現在、米国が同地域において採用しているリバランス政策についても、2016年の米国大統領選挙の結果によって大きな影響を受けることは間違いない。 
 本稿では、これまで、全米各州において政党別に行われてきた予備選挙、党員集会における両名の発言等に注目しつつ、アジア太平洋地域の安全保障に対する考察を加えてみる。 

ドナルド・トランプ氏について 
 世論調査によると、共和党のトランプ氏のイメージは「傲慢」「自信家」「ばか」である。オフィスビル開発やホテル、カジノ経営等で大成功を収めた不動産王であることから、羨望とともにその辣腕さによるイメージであろう。