米中「新冷戦」下における我が国の安全保障戦略

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政策提言委員・衆議院議員 長島昭久

1. 問題意識
 2017年12月にトランプ政権が『国家安全保障戦略』を策定し、米中関係を「戦略的競争」と規定して以来、「米国第一主義」を鮮明にするトランプ政権と「中華民族の偉大なる復興」を掲げる習近平政権との間で両国関係は悪化の一途をたどり、同盟国や有志国を巻き込む形で、世界は新たな冷戦構造に向かいつつある様相だ。米中の鬩せめぎ合いは貿易摩擦の次元にとどまらず、軍事安全保障は勿論、技術覇権、地政学的影響力、さらには統治理念や政治体制をめぐる対立にまで発展し、昨年7月、ポンペイオ国務長官(当時)が「中国共産党の行動を変える必要がある。そのためには、自由主義国家は結束して自由を擁護しなければならない」と演説するに至り、ついに価値やイデオロギーの対立構造にまで先鋭化してきた。
 かつての米ソ冷戦の主戦場は欧州であった。これに対し今回の米中新冷戦の主戦場は東アジアないしインド太平洋であり、好むと好まざるとに拘わらず日本はその最前線に立たされることとなった。しかも、「冷戦構造」の進展および急速な技術革新とその軍事利用の趨勢に鑑みれば、日本は、これまでのような「専守防衛」に象徴される受動的な防衛態勢から、より能動的な防衛態勢に転換する必要に迫られていると言わねばならない。少なくとも、我が国が今そのような緊迫した戦略環境に直面していることを、政治家も国民も等しく認識する必要があろう。
 我が国にとり、「米中新冷戦」は対岸の火事を眺めるような悠長な話ではない。これまでのような、「日米同盟」と「日中協商」を両立させることは益々困難になることを覚悟すべきだ。日本では、米中対立の激化をめぐり、「トランプ政権はやり過ぎだ」とか、「バイデン政権は大丈夫なのか」などと他人事のように見る向きもあるが、日本自身が確固たる対中観、或いは中国の行動に対する正しい評価(場合によっては脅威認識)というものを持つことが何よりも重要である。
 戦略的競争に基づく対中関係において、「アメリカに付き合うか、付き合わないか」という受動的な姿勢や、米政権が代わるたびに尖閣に日米安保条約第5条が適用されるか否かを確認するような依存体質から、一日も早く脱却すべきだ。中国問題は、対米外交の課題などではなく、日本自身が国家として主体的に向き合うべき最重要の戦略的課題なのだ。
 その上で、我が国として第1に取り組むべきは、蓋然性の高いシナリオ(例えば、尖閣諸島占拠、台湾有事、北のミサイル攻撃など)をベースにした我が国の抑止力と防衛対処能力の総点検である。