北方領土と尖閣問題で今考える事

.

政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 新聞には、社説という欄がある。広辞苑によれば、社説とは、「新聞・雑誌などに、その社の主張として掲げる論説」とある。多くの新聞が社説としているのに対して、「主張」としている新聞がある。私が知る限り次の2紙である。産経新聞と日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」である。両極のような新聞だが、これも広辞苑によれば、「自分の説を強く言い張ること」とある。納得である。
 
北方領土に関する興味深い産経新聞の「主張」
 今年2月7日の産経新聞主張欄に、興味深い論説が掲載された。そのタイトルは、「プーチン氏と交渉やめよ 『ソ連崩壊30年』で新戦略を」となっている。
 安倍晋三前首相がプーチン大統領とは何度も交渉してきた。昨年8月安倍氏が辞意を表明した直後の8月31日にも電話会談を行い「シンガポールの会談(2018年11月)では、こういうことも、或いはこういうことも合意したよな」と一つ一つ確認し、プーチン氏も「そうだ」と答えたと言われている。その内容について、当時安倍氏は、「1956年共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。本日そのことで、プーチン大統領と合意いたしました」と述べている。
 辞意表明後の安倍・プーチン電話会談もこの路線での交渉継続をプーチン氏に求めるためであった。菅義偉首相も9月29日のプーチン氏との電話会談で「日露の関係はしっかりと引き継ぐ」と述べたのに対して、プーチン氏は「(大事なのは)シンガポール会談だ」と答えたという。
 ところが産経の「主張」は、プーチン氏との交渉をやめよ、というのだから大胆という他ない。だがその内容を見れば、実に説得力のあるものだった。「主張」は次のように始まっている。
 
 「北方領土交渉はいま、死の際にある。ロシアのプーチン政権は、うなぎのかば焼き(四島)の匂(にお)いだけ日本に嗅(か)がせて本体は一片たりとも渡さず、あわよくば経済的獲物をせしめようと交渉を続けてきただけだ―。こう喝破したのは、一昨年死去したソ連・ロシア研究の泰斗、木村汎氏だった。現実はその通りになりつつある」
 
 確かにその通りである。「主張」は、更にロシアが昨年の憲法改正で「領土の割譲禁止」を明記したことや「割譲行為は最大禁固10年、割譲を呼び掛けても最大4年」という刑法改正も成立させたことを指摘。国家安全保障会議副議長のメドベージェフ元大統領・首相の「ロシアには自国領の主権の引き渡しに関わる交渉を行う権利がない」という発言を紹介し、「日本側に一方的に『領土断念』を促す無礼千万な発言だ」と厳しくロシア側を批判している。