「霊戦」:日米戦争を踏まえて米ソ「冷戦」の再考を

.

上席研究員・麗澤大学准教授 ジェイソン M・モーガン

「冷戦」と「霊戦」
 2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの侵略を受けて、日米の評論家が口を揃えて「冷戦がまた始まった」「冷戦後体制が崩れている」などと言っている。「冷戦」をベースにして今のロシア対西側諸国の対立を分析しているコメンテーターが、アメリカでも日本でも多い1。今回のウクライナ侵攻だけではなく、以前にもロシアが膨張主義を躊躇せず隣国を侵略した。その時も日米の評論家はすぐに「冷戦」を思い出した。
 その理由として、冷戦終結は日本を含む西側諸国が勝利したという認識が挙げられる。1989年にベルリンの壁が取り壊され、1991年にソビエト社会主義共和国連邦が崩壊してから、自由主義、民主主義、資本主義陣営と共産主義、独裁主義、社会主義陣営で世界を二分した戦後体制、つまり「冷戦」で自由主義側が勝利し、昔のイデオロギー、特にマルクス主義、レーニン主義、共産主義などが全面的に敗北した、という捉え方が一般常識になっている。にも拘わらず、ロシアがまた侵略戦争を始めたのは、「東西冷戦を復活させたいのか」「ロシアは冷戦終結を認識していないのか」という評論家がいる。1991年以降の世界の常識を覆し、その正当性を強行するプーチン大統領の行動は、「冷戦の再勃発」と考えるのが自然であろう。
 皮肉なことに、冷戦終結から30年以上経った今、西側では冷戦という枠組みの中でしか物事を考えられない専門家が多いようだ。プーチンではなく、西側のインテリ層の方が「永遠の冷戦」に縛られているようだ。
 しかし、冷戦だけで西側対ロシアの対立を理解しようとすれば、それ以前の歴史の流れが無視される恐れがある。冷戦が戦後の歴史の構造になっているのは、戦中と戦前の歴史の構造がある程度忘れられているからだ。が、その歴史、つまり「冷戦」という概念が存在する以前の歴史が非常に重要だ。冷戦以前の歴史を長い目で見ると、冷戦の実体が違って見えてくる。
 特に、大日本帝国の歴史を視野に入れると、その後に続く歴史の本当の姿が見えてくる。戦後、日本は西側諸国の1国家として捉えられているが、それ以前、日本は決してそうではなかった。日本を巡っては、米ソが対立しているどころか、日本を破滅させるために密に協力していた。米ソの協力があったからこそ、大日本帝国が西側諸国(戦争を実行するためソ連は「名誉西洋国」に昇任された)によって潰され、アメリカの手に渡った(ソ連も日本の半分を欲していたが)。