高高度電磁パルス(HEMP)攻撃の対応準備を急げ

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政策提言委員・元陸自化学学校長 鬼塚隆志

1 はじめに
 先進国の個人及び組織の諸活動は、宇宙空間とサイバー領域(コンピュータネットワーク)の活用、及びその活用を可能にする電磁(波)スペクトラムの活用と相俟って、進化し続ける電気・電子系統なくしては最早存立し得なくなっている。そのような中、各国は、上記の科学技術を用いて、人的殺傷・建造物破壊などの動的破壊を引き起すことなく、軍・民の諸活動に不可欠となっている電気系統のあらゆる物を、瞬時に広域にわたって非動的に損壊・破壊する兵器の開発、取得に多大な努力を傾注していると見られている。
 その兵器は、電磁波妨害兵器、サイバー兵器(マルウェアを送り込みコンピュータ・システムの制御の乗っ取り等を行う兵器等)、電磁(波)パルス兵器等であり、既にその一部は実際に使用されており、更に、ならず者国家及びテロ組織等もそれらの技術や兵器の取得等に努めていると見られ、先進国の安全保障にとって極めて大きな喫緊の脅威となっている。
 中でも電磁(波)パルス兵器には多大な努力が傾注されており、その兵器で巨大な威力を持つものは、核兵器・核爆発装置を利用するものである。例えば約10キロトン程度の小型の核兵器・核爆発装置を高高度(約30~400Km)で爆発させて発生させる電磁パルス(HEMP)の威力は、瞬時に半径数百km以内の電気系統をほぼ全て破壊し、個人・組織の諸活動を崩壊させると推測されている。因みに、現在の電子機器等は、電磁(波)パルス攻撃等を殆ど考慮せずに微弱電流・電圧で作動する電子素子・超集積回路(超LSI)を多用するようになっており、その結果、電磁パルス攻撃に対しては極めて脆弱になっている。更に重要なことは、広域に亘る破壊状態等を復旧するには、大量破壊等に備えていない現行の復旧要員・資器材等の態勢では、数ヵ月から数年かかると見られており、復旧が長引く場合には、結果として疾病及び飢餓が発生・蔓延し大量の人員が死に至ると推測されているということである。
 本拙論は、以上の観点から、発生原理及び破壊効果等の概要がある程度明らかになっており極めて大きな破壊効果を持つHEMPに焦点を当てて、電磁パルス(EMP)攻撃の概要、各国のHEMP 攻撃及び防御能力等、HEMP攻撃に対する国際的な取り組みを概説し、それらに基づき対HEMP防護のために我が国が最小限速やかに実施すべき事項について記述するものである。

2 電磁パルス(EMP)攻撃の概要
2-1 EMP 攻撃の種類
 EMP攻撃は、①高高度における核爆発によって発生するHEMPを利用する攻撃と、②バッテリーの電力を変圧する特別な装置或いは強力な化学反応及び爆発によって発生する強力マイクロ波(HPM)を利用する攻撃に大別される。