第155回
「日本は台湾をどう守るのか」

長野禮子 
 
 台湾をめぐる議論が活発化しつつある。今回はロバート・エルドリッヂ氏をお迎えし「日本は台湾をどう守るのか」をテーマにお話し頂いた。またハワイよりグラントF.ニューシャム氏も加わっていただき、オンライン・対面ハイブリッド方式を導入して開催した。
 冒頭、エルドリッヂ氏より緊迫化する最近の台湾情勢をめぐって米国の対台湾政策に関する話として、2021年2月、米議会での安保対話、合同軍事演習、貿易協定、要人相互訪問、蔡英文台湾総統の米議会演説を盛り込んだ台湾侵略未然防止法案が提出されたこと等の紹介があった。その上で3月、インド太平洋軍司令官デービッドソン氏の「2027年までの中国の台湾侵攻」の可能性や、次期司令官アキリーノ氏の「それは思っているより早い」との見解がある中、キャンベル調整官の「戦略的あいまいさが望ましい」との発言についても紹介し、必ずしもバイデン政権による対台湾政策が信頼でき得る盤石な体制とはなっていないと指摘。
 ニューシャム氏からは中国による台湾侵攻が実行された場合、起こり得る具体的事象として、以下の5点が考えられるとの指摘があった。①軍事施設や民間施設、行政府に対するミサイル攻撃 ②電力等のコンピューターシステムへのサイバー攻撃 ③台湾国内の親中派(特殊部隊含む)による騒擾扇動(警察施設への襲撃・要人の暗殺)④台湾国内の親中派による港湾・空港占拠の後、中国軍による海・空からの上陸 ⑤継続的な増援部隊の派遣――これらが段階的に行われるという。
 一方、台湾軍は組織的・制度的に脆弱であり、米国の台湾到着も時間がかかる。仮に中国が台湾を接収した場合の日本への影響は4つ。①日本への資源供給を支える海上交通路(シーレーン)が封鎖される ②第一列島線が中国に突破され南西諸島防衛が危険に晒される ③日本全体が親中諸国に囲まれる ④米国への信頼損失という心理的影響――以上の点から、日本がやるべきことは山積していると付言した。
 今回は原則「無観客」での開催だったが、エルドリッヂ氏は参加した数名のメンバーとの意見交換で、「今、日本ができることは何か」を問うた。それに対し参加者から、米国が制定した日本国憲法、その第9条による束縛や現在の日中関係を考慮すると、先の共同声明で「台湾海峡(・・)」が言及されたことを寧ろ評価すべきだという意見が出た。また、水面下の動きとして政府間での対話や交流のやり方については官邸主導で模索している最中ではないかといった声が聴かれた。
 さらに、5月11~17日、九州各地(相浦(長崎)、霧島・えびの(鹿児島・宮崎))で行われた日米仏共同訓練の意義について質問があった。エルドリッヂ氏とニューシャム氏は共に同演習を積極的に評価できると述べた一方、さらなる規模の拡大、より複雑な訓練を継続する必要性を主張した。
 最後に、今後考え得る日米や同盟国間の連携を図る上で、台湾有事を想定したウォーゲーム等図上演習実施について話が及んだ際、ニューシャム氏はその有用性を認める一方で、「米国(同盟国側)の勝利」を前提にした予定調和的な結論に至らないよう留意すべきだと付言した。
 日台は外交関係を解消した1972年以降、専ら民間交流で互いに強い関係を構築してきた。しかし安全保障における日本の対台湾政策は決して積極的なものではなかった。中国の台湾武力侵攻が近付きつつある今、先の日米首脳会談の共同声明で「台湾海峡の平和と安定」が明記されたことで、日台の安全保障を公然と語れる環境ができたことは大変意義深い。日本は最早、憲法改正をこまねいたり、中国を念頭にした経済優先を主張する経済界の理解不足を言い訳に、「大人の対応」を気取っている場合ではない。共同声明の中身の具体的実現のために、まずは日台間の政策対話や公的関係構築に着手すると共に、日米間では中国による台湾侵攻のシナリオを想定した戦略対話、統合作戦の検討に入るべきだという思いを強くした。
 台湾有事は日本有事という意識を日本国内の様々なレベルで高め、対台湾政策を具体的に推し進める政治機運が早期に醸成されることを期待したい。
 
*新型コロナ感染拡大防止のため、通常の開催を避け、関係者には動画配信とする。
テーマ: 「日本は台湾をどう守るのか」
講 師: ロバート D・エルドリッヂ 氏(JFSS上席研究員・元在沖縄海兵隊政務外交部次長)
特別ゲスト: グラント F・ニューシャム 氏(JFSS上席研究員・元米海兵隊大佐)
日 時: 令和3年5月18日(火)14:00~16:00
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