北朝鮮潜水艦発射弾道ミサイル実験とその能力向上と評価Q&A

政策提言委員、軍事・情報戦略研究所長 西村金一

実験状況について

 北朝鮮は2015年5月、新たに開発した潜水艦から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を水中から発射(1回目)した。1回目の発射は、水中からではなく水面のバージ(艀、重い貨物などを運ぶ平底の船)から発射した。
 今年(2016年4月)、北朝鮮は再びSLBM を発射(2回目)した。その映像を分析すると、2回目は、実際に水中から発射してはいるが、発射装置を水中に沈めて、そこから発射したものであり、弾道ミサイル潜水艦(SLBN)からの発射ではない。飛翔距離は約30キロであった。

 同年7月、3回目のSLBM を発射したが、飛翔距離が数キロに過ぎなかった。

 同年8月、4回目のSLBMは、約500キロ飛翔し日本の防空識別圏に落下した。水中からの試射に成功したものと評価できる。


Q1.潜水艦から発射しているのか?

 水中から発射しているが、潜水艦からは、発射されていないと見るべきであろう。

 その理由は、北朝鮮の映像を見ると、新補級と呼ばれる潜水艦が海上を移動していて、その前方遠くからミサイルが飛翔している。2回目3回目の発射からそれほど時間が経過していない。海中発射の映像を出していない(2回目は発表したが、潜水艦からではなかった)。北朝鮮が水中からの試射に成功したと発表していて、潜水艦からとは言っていないことから。


Q2.射程はどれくらいか?

 約500キロ飛翔した形跡があり、500キロの有効射程があると見たほうがよい。ハイアングル射撃であったという情報もあり、だから1000キロという情報もあるが、潜水艦の大きさ、ミサイルがスカッドレベルの大きさ、北朝鮮の現在のレベルから、否定的に見るべきであろう。


Q3.どこの国から技術を導入しているのか?

 ロシアあるいは中国から導入した可能性がある。独自の技術ではないものと評価できる。

 いかにも北朝鮮開発の潜水艦であるかのようだが、北朝鮮のSLBNの衛星写真や北朝鮮が公表する写真から評価すると、大きさや形状からロシアの初期級弾道ミサイル潜水艦ZULU級に似ている。恐らく、ロシアから設計図が供与されたか、潜水艦そのものを供与された可能性がある。

 もう一つ考えられるのが、中国のゴルフ改級のSLBNとも考えられないことはないが、潜水艦本体の形状が似ていないことから、可能性としては低い。



Q4.中国やロシアのSLBNとの違い(能力・運用)

 北朝鮮のSLBNの能力を評価すると、初歩段階である。たとえば、韓国国防省によると、SLBNには1発しか搭載できないという。

 中国やロシアのSLBMと北朝鮮のSLBMとは、射程の違いから大きな差があることから、その運用に大きな違いが生じる。

 中国SLBMのJL-2潜水艦発射弾道ミサイルの射程は8000kmであり、これと比べると北朝鮮のものは500kmであり短すぎる。射程や発射できる弾数から見て、米ロが保有しているSLBMとはまったく異なるものであり、SLBMという用語に騙されてはいけない。

 中国の場合は、SLBMの射程が8000kmであるので、アラスカやインドに向けて発射する場合は、南シナ海や東シナ海から発射することができる。米国本土に向けて発射する場合は、北極海や東太平洋に進出しなければならない。

 北朝鮮の場合は、射程が500kmであるので、米国本土に向けて発射する場合は、北朝鮮を出港して、宗谷海峡・津軽海峡・対馬海峡のどれかを通峡し、長距離を移動して、米国の西海岸付近まで到達しなければならない。そこに到達する前に、日米の対潜水艦作戦により、撃沈させられることは明らかだ。



Q5.脅威はどうか

 日本や韓国にとっては、大きな脅威になったことは、事実である。

 北朝鮮はおそらく、次世代の弾道ミサイル潜水艦、つまり中国と同様の弾道ミサイル潜水艦の開発構想を有しているものと考えられる。そして、着々と大型の潜水艦、多数の弾道ミサイルを搭載する構想を進めるであろう。とは言え、潜水艦の開発は、秘密のレベルが極めて高い。そのため、ロシアや中国は、現在運用中の大型で静粛に行動する潜水艦の技術を提供することはありえないことから、短期間に中国やロシアレベルにはならない。



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