最近、汚職追及等で「中国で一番恐れられている女性」と称される胡舒立(1953年生まれ。『財新メディア』および財新『新世紀』のトップ)が、中国当局から指名手配を受けている中国人大富豪、郭文貴(1967年生まれ。北京盤古氏投資有限公司・北京政泉控股有限公司“ホールディングス”代表)に対し厳しい批判を展開している。
一方、郭文貴は中国共産党のスキャンダルを海外メディアに暴露している。郭文貴の胡舒立への反撃である。郭証言の真偽のほどは定かではないが、中国語メディアや英語メディアの情報を総合すると以下の通りである。
第1に、郭文貴の背後には、江沢民元国家主席(1926年生まれ)の側近、曾慶紅(1939年生まれ。元政治局常務委員、「チャイナ・ナイン」の1人)が控えている。曾慶紅は江沢民率いる「上海閥」の最重要人物である。
一方、胡舒立のバックには、「反腐敗運動」を推進する習近平国家主席(1953年生まれ)の「太子党」の盟友、王岐山・党中央紀律検査委員会主任(1948年生まれ。政治局常務委員、「チャイナ・セブン」の1人)が存在する。胡舒立と王岐山はただならぬ関係だと噂され、胡舒立には私生児がいるという。
同時に郭文貴は、胡舒立が友人の李友(1966年生まれ。北大方正集団CEO)の愛人だと明言した。現在、李友は中国当局の取調べを受けている。李友は既に失脚した令計劃(胡錦濤の側近)の「西山会」に資金提供していたという。
習近平・王岐山は、鋭意、江沢民派の「上海閥」を一掃しようと意図している。だが、政治局常務委員(「チャイナ・セブン」)の中には、「上海閥」の張徳江(1946年生まれ。全国人民代表大会常務委員会委員長)や劉雲山(1947年生まれ。党中央書記処常務書記で、前党中央宣伝部部長)らが、それを阻止しようと試みている。
習・王連合は、最終ターゲットとして「上海閥」の曾慶紅・江沢民の逮捕を視野に入れているのかもしれない。場合によっては、習・王は「チャイナ・セブン」の張徳江・劉雲山・張高麗(1946年生まれ。国務院常務副総理)らを一度に逮捕することも考えられる。
第2に、2008年8月の北京オリンピック開催時、その準備のため王岐山は2003年に北京市長となった(2007年11月末で北京市長の任期終了)。その時郭文貴は、現在、党中央紀律検査委員会取調中の国家安全部副部長、馬建と組み、北京市副市長だった劉志華(2006年に失脚)に便宜を図ってもらい、北京摩根(モルガン)投資有限公司を通じて巨額の利益を得たと言われる。
北京五輪準備段階で、当時の王岐山北京市長は郭文貴や李友とかなり親密な関係だったという。機内3人で撮られた写真がネット上に流されている(但し、王岐山の顔にはモザイクがかけられている)。目下、王岐山は経済犯罪者として郭文貴を追っているが、かつては王と郭は関係が深かったと推測できる。従って、郭文貴が王岐山の重大な秘密を握っていることは十分考えられよう。
第3に、郭文貴は現時点で米国に滞在している。そして、自分が「香港市民」であり中華人民共和国のパスポートを持っていない、つまり中国国籍ではないと公言している。さらに、郭は米国が彼を守ってくれるだろうとも放言した。
今年7月、王岐山は訪米の予定である。王は中国から米国へ逃亡した汚職高官等を「狐狩り」と称して捕まえに行く。
令計劃の弟、令完成は、目前に失脚が迫った馬建(背後には曾慶紅)から党最高幹部の「セックス・ビデオ」や国家機密を渡されたという。確かに郭文貴も令完成同様、国家機密を握っている可能性は高い。王岐山は令完成と郭文貴らを逮捕する為に、アメリカへ行くのだろう。
問題は、オバマ政権が王岐山の郭文貴・令完成引き渡し要求に応じるか否かである。もし、「香港市民」だという郭文貴の話が事実ならば、米国は簡単には王岐山の要求を呑むわけにはいかない。
第4に、2017年秋の第19回党大会時、今の「チャイナ・セブン」の中で、習近平と李克強(1955年生まれ)以外の残り5人は、68歳の定年で引退しなければならない。
胡錦濤率いる「共青団」の胡春華(1963年生まれ。現広東省党委員会書記)や孫政才(同年生まれ。現重慶市党委員会書記)あたりの政治局常務委員入りが有力視される。しかし、習近平としては胡春華と孫政才が「チャイナ・セブン」になれば、自らの出身母体「太子党」の勢力が削がれるだろう。よって「太子党」の有力メンバー中から、一人でも多くの政治局常務委員を選ぶ可能性を否定できない。
現在進行している「反腐敗運動」と絡んで、中国共産党は将来もなお、党内闘争が続く。
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