今年3月31日と4月1日、米国で「第4回核セキュリティ・サミット」がワシントンで開催されている。中国の習近平主席も同サミットに出席するため、3月28日、外遊をスタートさせた(29日、習主席はチェコを公式訪問している)。
その習主席が外遊を始めた矢先の29日午前、米国ニューヨークに本部のあるインターネットサイト『明鏡新聞網』の「明鏡博客(ブログ)」に、「すぐに習近平主席のあらゆる職務から辞任を要求する書」が掲載された。
既報の通り、3月4日(全人代開幕前日)には、『無界新聞』(「一帯一路」というコーナー)に「習近平同志の党と国家的指導職務の辞任要求に関する公開状」という文章(筆者は1人という設定)が掲載されたばかりである。※参照:チャイナウォッチ-87-
『無界新聞』とは、昨年4月、新疆ウイグル自治区と財訊集団(雑誌『財経』の親会社)とアリババグループ(創始者はジャック・マー)の3者が立ち上げたネットサイトである。間もなく、その関係者4人が失踪した。
一方、今回は、党・政府・軍などの各機関から171人、中国共産党に“忠実”な党員が、習主席辞任の要求をネット上で訴えたのである。その訴えはすぐネットから削除された。
さて、「習主席辞任要求書」によれば、習主席は5つの間違いを犯しているという。概要は、以下の通りである。
@習主席は、公然と党の憲章に違反し、個人崇拝を称賛している。人々に「習大大」(“大大”は、元来、陝西省の方言で「おじさん」の意味。尊称でもある)と呼ばせたり、自らを讃える歌を作らせたりしている。
あるいは、習主席の妻 彭麗媛の妹である彭麗娟を、春節(旧正月)直前の人気番組「中国中央電視台(CCTV)春節聯歓晩会」(日本のNHK「紅白歌合戦」のような年末のカウントダウン・イベント)という番組の主任に抜擢した。
A習主席は、法治主義を踏みにじり個人独裁を行っている。各種の「中央指導小組」を立ち上げ、権力を集中させた。そのため、李克強首相の合法的権限に大きな影響を与え、かつ李首相の権限を制約している。
B習主席は、国内の人民の生活を顧みず、外国へ援助する際には大盤振る舞いしている。
C習主席は、軍を掌握するため勝手に軍制改革(7大軍区を5大戦区へと編成替え)を行った。そのため、軍人の士気が下がり、軍内で対立が高まっている。
D習主席は、個人の生活を侵害し、党や国家のイメージを悪くした。例えば、『習近平とその6人の女性』を出版しようとした香港銅羅湾書店の株主・店主・書店員らに対し、公安を使って彼ら5人を拉致・拘束し、国際的非難を浴びている。
したがって、党中央は、すぐに緊急会議を開催し、習近平の党・政・軍のあらゆる職務を罷免せよ。そして、来年の第19回全国代表大会では「1人1票」の選挙で、総書記、党中央、党代表を選出すべきである。我々は、8000万人の党員の直接選挙を経ていない、いかなる党中央も認められない、と主張している。
ところで、(21世紀に入り、SNSが発達した)前胡錦濤政権時、これほど露骨な「主席辞任要求運動」が起こったことがあったろうか。寡聞にして知らない。
確かに、胡政権末期の2012年8月、1600人の保守派の老幹部や学者が、胡政権の経済改革は社会主義経済の根本を揺るがしかねないとして、温家宝首相に対し、罷免要求を突きつけたことがある。だが、それは決して胡主席に向けられたものではない。
2013年3月、習近平政権は名実ともに正式発足したが、それからわずか3年しか経っていない。ところが、すでに党内から習近平主席に辞任要求の声が上がっている。異常ではないか。
その最大の理由は、「太子党」の習近平・王岐山コンビによる「反腐敗運動」という名を借りた“権力闘争”にあることは間違いない。特に、習王連合は「上海閥」に対して情け容赦がない。その反発が非常に強いと考えられる。
しかし、決してそれだけではないだろう。今の中国経済は、1990年以来、最悪にもかかわらず、習近平主席は“新常態”(ニューノーマル)と銘打って有効な景気対策を打ってこなかったからではないか。
習主席に対し、共産党内部からこれだけ強い批判が出るということは、習政権が、すでに“末期的症状”に陥っている証しとも言えよう。
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