「デカップリングのススメ」
―日本は政経分離で国家を守れるのか―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 トランプ氏でも、バイデン氏でも、米国の対中政策はあまり変わるまい。中国の真意が米国打倒であることに変わりないからだ。北京が主導権を握っている以上、中国の外海に打って出る思想には変化がない。その狂的な中国中心主義が激化しすぎると中国共産党内部で政変があるかもしれないが、彼らの「中華思想」は微塵も変わるまい。国力を取り戻せば、元の膨張主義に戻るだけだ。今、中国は尖閣を狙っているがその次は沖縄ということになるだろう。日本が将来を守る術は米国と同盟するしかない。
 目下、世界を揺るがしているコロナパンデミックは中国が故意に起こしたものかもしれない。パンデミックが収まったあと中国は、一気に尖閣列島を占拠し、台湾に侵入する気配がある。第32代海上幕僚長の武居智久氏と米海軍大学のトシ・ヨシハラ元教授共著『中国海軍VS.海上自衛隊 すでに海軍力は逆転している』を読むと中国は「開戦から4日以内に尖閣諸島を奪取?」とある。
 ここまで中国軍を強化、進化させたのは中国に極めて有利になる世界貿易機関(WTO)に加盟させたからだ。中国に立地した日本企業は3万社に上る。米国も本国に失業が出るほど企業が中国へ出て行った。
 そこにコロナ禍が起こって、判明したのは、中国からの輸出入が滞ると製造業部品や生活必需品が欠乏するという事態である。今、日、米ともサプライ・チェーン(供給、調達網)の見直しに躍起になっている。その象徴がファーウェイ輸入禁止で、以前は米国の機械、軍需品に使用されていた。
 今後、起こるデカップリング(切り離し)は経済界の大物がひそかに根回しをすればいいが、日本は葛西敬之JR名誉会長と経団連会長で日立製作所会長の中西宏明氏との間で意見が真っ向から対立する。財界の大物二人の意見が全く違うのが奇異に見えるのか、9月15日付けのウオール・ストリート・ジャーナル紙で取り上げられていた。両者の言い分を読むと、中西氏はデカップリングが必要ないという非常識さだ。
 米ソ対立の時代、スイスのベルンにスイス軍の実態を調査に行ったことがある。日本は米国に守ってもらいながら、政経分離の名の下に、ひそかに日中・日ソ貿易をしている頃である。スイスが国民皆兵の国であることは広く知られている。1年に1ヵ月程度の訓練があり、訓練に励むと階級が上がる。経団連の社長会議のようなものがあるが、社長クラスになると皆が佐官級(民間人では最高)である。仮に政府が道路予算をつけると、この社長会議でこの部分は滑走路両用に使えたほうが良いなどという注文が出る。日本なら経団連の会議で軍事問題を持ち出せば、日本学術会議のような団体が吠えまくるだろう。スイスの経団連は事業と共に軍需問題も討議する閣議のようなものだ。スイスでは軍事のことに無知なら社長にはなれない。
(令和2年10月28日付静岡新聞『論壇』より転載)