○ 軍事の運用に係る法制度- 軍事の運用に係る法制度を英語ではオペレーショナル・ロー(operational law,オプロー)という。外国と異なり日本は国内法が複雑でオプローの専門家が育ちにくい。自衛官には遵法(コンプライアンス)が重視され、国内法で規定された任務が複雑多様化されてしまった結果、隊員が法的根拠を十分に理解することが極めて困難な状況にある。例えば、平和安全法制は一挙に10本の法律改正が行われた。これではなかなかそれについていけない。
○ 海の特殊性- 陸と海の一番の違いに、国際法でもいわれる「海の特殊性」がある。陸の警察などは少なくとも完全な主権が及ぶなかで活動するので関係する法律は全て国内法のみが適用される。海の場合には領海を出ると国外なので、常に正面から国際法に向き合わなければならない。
○ 国際平和協力活動- 法的には海上自衛隊も日本の国際平和協力本部の派遣対象とはなるが、実際には陸自部隊の輸送や拠点が固まるまでのシーベーシングの様な形のものになる。
- これまで、カンボジアと東ティモールの2件派遣経験がある。
○ 国際緊急援助活動- PKOと同じで輸送と捜索を行った。陸上では陸自が活動するので、海は輸送とシーベーシングを提供した。バンダアチェの際には任務から帰投するヘリ搭載型の護衛艦を寄らせた。陸自の活動するのは津波で何もないところ、活動の拠点がないとろであったので、船の中で休息やシャワーなどリフレッシュする環境を提供した。
○ 海賊対処行動- 海上自衛隊は逮捕・捜査の司法警察権限がない。海賊を捕まえたとしても司法手続きができないので海上保安官が乗っている。自衛隊と違うのは、海上保安官は司法警察権を持っていることである。
- 対処法前の海上警備行動というのは、あくまで海上における日本人の人命財産のみの保護を対象としており、外国の船舶は保護の対象とはされず、国際的にはなり立たない。このため、2009年6月に新たな海賊対処法を成立させて、全ての国の船舶の保護ができる枠組みを創設した。
○ 国際平和共同対処事態の原型- 1996年の橋本・クリントン会談で冷戦期のガイドライン見直しの合意を受けて、1999(平成11)年に周辺事態法が整備された。冷戦時に押さえられていた半島や台湾など周辺の紛争事態が、日本も攻撃されたような状態になるということが懸念された。
- 日本は武力の行使に制限があるので、戦時行動をとるアメリカをどうサポートするかということが焦点となった。周辺事態法と船舶検査活動法は「ガイドライン関連法」とされ、あくまでも米軍との日米同盟を基軸としたものになる。
○ 後方地域捜索救助活動・被災民救援活動- この活動は、戦闘によって水域に不時着したパイロットなどを救助するというものである。自衛隊には「災害派遣」という役割もあり同じように事故があった航空機の乗員を救出するというものであるが、これは災害あるいは事故を想定したものである。また、被災民救援活動では「後方地域」概念を外したことが一つのポイント。実際に要請はなかったが、パキスタンから要請があれば難民キャンプをつくって支援するということも想定された。
- それまで、活動に従事する日本の隊員や職員を守るということで武器の使用を認めていたが、実際に難民キャンプを設営した際には難民・被災民・外国要員がいるため、新しい言葉として「自己の管理下」に入った人を守れるというスキームを作った。
○ 補給支援特措法以降- テロ特措法は2年の時限立法だったので2年毎に期間延長の手続きをしていたが、国会での延長措置がとられず、「補給支援特措法」を成立させた。この際に「捜索救助」「被災民救援活動」は実態として行われていなかったので、実態にあわせて「補給支援活動」のみに絞った。
- この枠組みが恒久法として国際平和支援法(2015.9)となった。
○ 船舶検査活動- 国連憲章第7条の手続きが、平和に対する脅威等の認定(39条)から禁輸等の非軍事的措置の決定(41条)を経て、一気に軍事的措置の決定(42条)となっている。実際、禁輸が決定しても密輸が可能であり、その間を繋ぐという意味で、第7章の下での行動としての禁輸実行措置執行が出てきた。但し戦時ではないので封鎖ではなく、集団的自衛権の行使でもない。強制型は「特定の状況に見合う措置をとること」を条件として武力行使が含意されている。湾岸戦争時との違いは、湾岸戦争の際には「必要なあらゆる措置」を取ることが認められているという点。2006年には北朝鮮の核実験に対する1718決議ができて、強制的に船舶を停止させる権限を安保理が与えたが、合法的な武器の移転を強制的に侵害することができる国際合意は存在しなかったことと、中露の要請で北朝鮮の暴発を避けるために非強制型の決議にした。これはPSI阻止原則であり多国間の非強制型の相互協力の枠組みとなる。
○ 上記のほか、捜索救難活動の救助対応、隊員の地位、使われなかった周辺事態法、船舶検査活動の問題点、海自と海保の相違点、研究員等との質疑応答については資料編を参照。
○ 提言に盛り込むべき事項(研究員)
- ① 「海の特殊性」を理解し、国際法・軍事法制に卓越したオペレーショナル・ローの専門家の育成の促進
- ② 捜索救難活動時における我が国の法的地位の検討(中立)及び救助した将兵の処遇の検討
- ③ 協力支援活動時における自衛隊員の法的地位の検討
- ④ 船舶検査活動における実施区域、活動区域の概念の整理が必要