来年の東京五輪でのマラソンと競歩がIOCの独断で札幌市に変更されることが決まった。
IOCのバッハ会長やコーツ調整委員長らは、9月に行なわれたドーハでのマラソンや競歩で多くの棄権者が出たことを理由にしている。
しかし、東京の7月、8月が何日も猛暑に襲われ、熱中症で死者まで出ていることは、誰でも知っていることだ。一生懸命招致活動をした人たちも、IOCのメンバーだってそんなことは百も承知のことだったはずだ。“出来るだけ外に出ないように”“家ではクーラーをつけるように”などという注意報が出るのが日本の夏なのだ。
それでも東京を選んだのだ。私は東京に決まった際、“正気の沙汰”ではないと思った。こんなところに決めておいて、今さら「アスリートファースト」などとよく言えたものだ。IOCにそんな資格はない。
五輪憲章には、「競技実施期間は16日間を超えてはならない」という規定はあるが、夏季五輪の開催時期に関する規定はない。したがって7月、8月でなければならない理由はないのだ。
なぜこんな無理な時期に行なうのか。巨額の放映権料を得るためだ。IOCの財政の約6割は放映権料が占めている。その額は驚くほど巨額だ。アメリカの放送局NBCは、2014年のソチ大会から、まだ開催地も決まっていない2032年の夏季大会までの10大会に120億ドル(約1兆3000億円)を支払うそうだ。
単純に計算すれば、東京五輪にも約1300億円の放映権料がIOCに支払われるということである。日本のNHKと民間放送局も合同で2018年の平昌五輪から、2024年のパリ五輪までの4大会に約1100億円を支払うことになっている。平均1大会275億円である。
このアメリカの放送局の意向がオリンピック開催時期に大きく影響している。ヨーロッパではワールドカップ以上にサッカーファンが熱狂するといわれるヨーロッパチャンピオンズリーグが9月に始まる。アメリカでは10月に野球のワールドシリーズが行なわれ、アメリカンフットボールも始まる。この放送と重ならないために、7月、8月の猛暑にオリンピックを開催するようになってしまったのだ。
平昌五輪でも、アメリカの放送局の都合に合わせるために、異常な競技日程が組まれていた。羽生結弦のフィギュアスケートは昼に行なわれ、葛西紀明のスキージャンプは、日付が変わるような真夜中に行なわれた。
東京五輪も実は同じことが行なわれる。陸上のトラック、フィールド種目の一部や、バスケットボール、ビーチバレーの決勝を午前開始で実施することが、すでに確定している。競泳も準決勝、決勝はすべて午前10時30分から12時30分に設定されている。普通は、この時間こそ予選なのだが、予選と決勝が逆転しているのだ。すべてアメリカのテレビ放送に配慮したものなのだ。
アスリートより、カネが大事、それがIOCなのだ。