中国は日本の尖閣諸島領海への艦艇の頻繁な侵入により、東シナ海での地域的な力の均衡を自国に有利に崩そうとしている――
アメリカ議会の超党派の政策諮問機関が年次報告書のなかで尖閣諸島への中国の軍事がらみの攻勢が日中両国間に軍事的な緊張を高めていると指摘し、日本側の安倍政権の対中融和政策への警告を発する形となった。
アメリカ議会で米中両国の関係がアメリカの国家安全保障にどんな影響を与えるかを調査する政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」が11月中旬に発表した2019年度の年次報告書は日中両国間の「尖閣危機」を指摘していた。
同報告書はいまの中国が経済、政治、軍事などの各面でアメリカやその同盟諸国への脅威を形成するようになったとして、その実態を500ページ以上の長大な文書により詳述していた。
その日本への言及は「中国による地域バランスへの圧力」と題する章で記され、いまの日中関係では尖閣諸島への中国の軍事がらみの攻勢が最大の危機を生みつつある、と指摘していた。
同報告書はそのなかで「危うい日中関係のリセット(再起動)」と題して、いまの日中両国が融和とも受け取れる接近をみせ始めたことについて懸念をにじませながら報告していた。同報告書はまず2018年10月の安倍首相による7年ぶりの中国訪問や、中国の「一帯一路」への日本の民間ベースでの協力をあげて、日中両国のリセットも呼べる関係再改善への動きを伝えていた。
だが同報告書は日本側にとっては中国による尖閣諸島への攻勢的な活動、中国の知的所有権の一方的な奪取、南シナ海の軍事化など懸念の原因となる動きがなお多いことを指摘し、これらの点の是正がなければ、日中関係の安定化は難しいという見解をも記していた。
日中関係の近況について同報告書は日本が昨年、中国へのODA(政府開発援助)を終了したことを述べ、1979年から40年ほども日本が合計324億ドルもの経済援助を中国に与えてきたことを報告し、「その結果、中国の経済開発が促進され、中国が世界第二の経済大国となったため、日本のODAはその『歴史的使命』を終えた」とも記して、日本がいまやアメリカへの脅威となった中国を強大にしてきたことへの皮肉ともとれる指摘を書いていた。
同報告書は尖閣諸島への中国の攻勢については以下の骨子を記していた。
・日中両国間ではなお東シナ海での国家主権紛争とそれにともなう両国の軍事近代化の努力とが相互にチャレンジとなって、緊張を高めている。
・中国は国家海警局と海上民兵の両方の作戦により、日本の尖閣諸島の施政権に対する挑戦を続けている。
・中国海警局の艦艇は2019年前半に毎月平均12隻が尖閣周辺の日本領海に侵入し、昨年同期の毎月7隻のほぼ2倍を記録した。
・中国海警局の艦艇は19年6月下旬の大阪でのG20サミット開催までに62日間、連続で尖閣諸島の日本の接続水域に侵入を続けた。
・中国人民解放軍は19年4月から6月の間、主として東シナ海で空軍機による日本領空への異様接近の頻度を増し、日本側の緊急発信(スクランブル)も新記録に達した。
・中国は日本の自衛隊がその最大艦艇をF35戦闘機の発着可能な「空母化」したことに対して「軍国主義的な歴史の繰り返しだ」と不当に非難した。
同報告書は以上のような中国側の軍事がらみの対日攻勢を列記して、とくに尖閣諸島への中国の攻勢が日中両国間の最近の再接近にもかかわらず、軍事的な緊迫や危機を生んでいると警告していた。そのうえで同報告書は日本側の抑止態勢の強化などを訴えていた。日本としては自国の領土を奪われそうな危機にみずから警鐘を鳴らす前にアメリカから注意を喚起される形となった。