トランプ政権が中国に対して人権面でも正面対決

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 アメリカのトランプ大統領が11月28日、「香港人権・民主主義法案」に署名したことは対中抑止政策の強化のうえでルビコンを渡ったといえる。トランプ政権は中国に対して経済、軍事、外交などの各面で強固な対決姿勢をとってきたが、中国共産党政権にとってその存続の根幹といえる人権抑圧政策面にまでついに正面から踏み込んだからだ。
 トランプ政権の今回の動きは中国政府が核心的利益とするチベット自治区や新疆ウイグル自治区での人権抑圧に対する厳しい抗議を補強する規制措置となった。アメリカ政府が超党派の支援を得て、中国共産党政権と人権面でも全面的な対決姿勢を固めたことともなる。その意味では米中両国の対立は決定的ともいえる段階に入ったといえる。
 トランプ大統領が署名した「香港人権・民主主義法案」は香港の高度の自治の保持を中国政府に対して要求し、香港での人権侵害にかかわった中国側の個人にはアメリカでの資産凍結や入国禁止の措置をとることをうたっていた。同大統領の署名により、この法案が実際の法律となったわけだ。
 中国政府は即座にこの米側の動きを中国への内政干渉だとして厳しく非難した。中国側では官民ともにアメリカ国内に資産や家族をおき、個人レベルでもアメリカへの頻繁な訪問を繰り返す要人たちが多い。このためアメリカ側での新たな法律の施行は重大な支障となるわけだ。
 
 トランプ政権は中国との人権面での対決志向の新政策としてはすでに2018年12月に「チベット相互アクセス法」を施行している。この法律は中国政府によるチベット自治区でのチベット人への人権弾圧に抗議し、アメリカ側の官僚や報道陣、人権擁護団体代表らがその人権弾圧の実態の調査のためチベット地域に入ることを禁じる中国当局の措置を不当だとしていた。同法はそして中国側でアメリカ側代表のチベット視察を禁じる措置にかかわった人物たちにはアメリカへの入国を認めないと規定していた。
 トランプ政権は中国当局のチベット自治区でのチベット人弾圧にもこうした強固な対抗策をとったわけだ。中国共産党政権は長年にわたりチベット人の言語、宗教、風習、民族性などを否定する人権侵害の政策をとってきた。
 トランプ政権はさらに2019年10月には新疆ウイグル地区でのウイグル人弾圧にかかわった中国政府関係者たちのアメリカ入国を認めないことを決めた新方針をポンペオ国務長官名で発表した。
 新疆ウイグル地区ではここ2年ほど中国当局によるウイグル人への強制収容や洗脳教育、言語や宗教の放棄を押し付ける人権侵害が続き、トランプ政権やアメリカ議会共和、民主両党議員たちが激しい抗議を表明してきた。
 トランプ政権は中国側のウイグル人弾圧でも厳しい制裁措置を打ち出したわけである。こうみてくると、同政権は中国側が超重視するチベット、ウイグル、そして香港という3大地域での人権弾圧のすべての動きを抑える対抗措置をとったことが歴然としてくる。アメリカ側の人権面での中国への対決姿勢はいよいよ中国側がこれまでの政権や国家の運営で核心とみなす超重要領域にまで及んできたわけである。