歩行者優先はマナーではなくルール

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 度し難いあおり運転が後を絶たない。高速道路上で嫌がらせの急ブレーキや蛇行運転、停車などというのは、大惨事を意図的に引き起こそうとする行為である。
 2年前に、東名高速で家族4人が乗った車が追い越し車線で無理矢理停止させられ、降りたところに後続車が追突し、子供の目の前で夫婦2人が死亡するという痛ましい事件が引き起こされた。この事件では危険運転致死傷罪が適用されたが、当初、当該車両は停止しており、運転中ではないので危険運転に問えないのではという議論もなされていた。馬鹿げていると思うが、法律が現実に追いついていないのだ。
 こんなものは殺人罪を適用してもおかしくないくらいだ。高速道路の追い越し車線で停車するという行為が、後続車が激突する蓋然性を高めることは、どんな愚か者でも分かることだからだ。あおり運転、飲酒運転などという危険行為には、速攻で免許取り消し処分を下せるようにすべきである。
 私が最近気になるのは、信号機のない横断歩道で渡ろうとする歩行者がいても、止まらない車が実に多いことだ。私の実感では、止まる車はせいぜい1割程度だ。印象的には、一番止まらないのが女性と高齢者ドライバーだ。
 道路交通法第38条1項には、「横断歩道等における歩行者等の優先」という規定がなされている。守らなければ、「横断歩行者妨害」ということで反則金などの罰則もある。私もかつては運転免許を持っていたが、この規定を自覚したことはなかった。
 なぜこの規定に注目したかと言えば、埼玉県川越市に居住する私が利用する路線バス(東武バス)は、信号のない横断歩道に人が立っていると100%止まって、歩行者の横断を優先させているからだ。このことを東京でタクシー運転手をしている知り合いに話すと「東京では、タクシーが横断歩道で止まらなかったら一発で笛を吹かれて反則金を取られる」と話していた。私の推測だが営業車には、より厳しく運用されているのかも知れない。
 JAF(日本自動車連盟)が昨年の8月から9月にかけて行なった調査によると全国平均では、歩行者優先で止まった車はわずか8.6%という結果が出ている。この調査は、各都道府県で2ヵ所を選択し、JAFの職員が現場に行って調査したものである。この調査で断トツに一時停車率が高いのが長野県で58.6%になっている。調査開始以来、3年連続でトップだそうだ。断トツに悪いのが栃木県の0.9%だ。東京も2.1%と悪い。
 欧米では死者の多くが車同士の事故によるもので、歩行中や自転車走行中の死者は全体の2~3割程度だそうだが、日本では約5割にのぼっている。欧米に比べて歩行者の優先度が低いということだ。東京五輪では、いま以上に多くの外国人が日本を訪れるだろう。警視庁も危機感を持って取り組んでいるという。歩行者優先はマナーではなくルールだということをドライバーには知って欲しい。