「米中戦争の行方と日中韓首脳会談」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米中戦争はすでに勃発していると認識して貰いたい。かつての米ソ冷戦は横綱が土俵上で力を振り絞って組み合っているが如くだった。二大国とも下手に動くと負けるという趣だった。今回の米中戦争は、中国側が「勝った、勝った」と叫ばなければ、戦争が始まっていることすら気付かなかったろう。「中国製造2025」とか「2049」などという標語に気付かなければ、中国がそれほど優勢になっているとは誰も思わなかったろう。
 いち早く気付いたのはトランプ米大統領である。日本はTPPをどうやって築くか設計図を書いている最中だった。WTO(国際貿易機関)の不備をどうやって補強するかのんびりと考えていた。トランプ氏の就任前に安倍首相はワシントンを訪ねたが、国際情勢の認識に相当のズレがあったのではないか。トランプ氏は既成の国際組織はひたすら中国に利用されているだけ。ご破算にして、自らの力で平等を構築するとの考え方なのだろう。対して安倍氏は米抜きでTPPをまとめ、中国の入ったRCEP(東アジア地域包括経済連携)を構築しようとしている。RCEPは中国が得するが、友邦のインドが損をすると加入反対に転じている。日本にとって中国は敵対国だが、インドは永遠の味方である。この際、日本はRCEPなどやめたらいい。
 安倍外交が成功しているのは日米関係が親密だからだ。日中関係が〝親密″になれば、その分だけ日米関係の濃度は薄れて見える。中国の技術・軍事はかつての米ソ冷戦時代のソ連(ロシア)を超えるものがある。トランプ氏の世界経済を根こそぎ動かす警鐘によって、全世界が“中国”の脅威に気付いた。12月初め、ロンドンで行われた北大西洋条約機構(NATO)は「中国の軍事的な脅威に対し、一致して取り込む」ことで合意した。もともとNATOは対ソ連を想定した軍事同盟であり、中国に関心を払ったことはない。それが一致して警戒感を示したのは異例なことだ。ファーウェイを取り扱うかどうかについてはまだまだ意見が分かれているが、新しい中国製品を使う国は出ないだろう。
 中国政府は各国に移民した中国人をその国に帰化させて議員に育て、影響力を行使する戦略まで立てているようだ。オーストラリアで中国人が本国の意志に逆らってトラブルになっている。恐ろしい陰謀だ。
 日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の断絶は回避されたが、韓国は国防システムを人質にとって他国に圧力を加える国だということが分かった。文在寅大統領には自由・民主主義の側で存在し続けるという哲学はない。
 今月24日、日中韓の三国首脳会議が中国で開かれ、その際日韓会談も行われると伝えられている。言うまでもないが、安倍首相には元徴用工への補償問題など筋からずれる妥協は一切しないで貰いたい。フッ化水素系産品の輸出問題は完全な貿易管理問題だと認識するべきだ。
(令和元年12月11日付静岡新聞『論壇』より転載)