「規約を無視し続け発展した世界第2位の中国」
―WTO加盟で飛び級的発展を遂げる―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 30年ほど前〝土光臨調〟(第2次行政改革調査会)に出向して、電電公社の民営化に関わったことがある。その際、国家の進化には飛び級のような得なやり方があることに気付いた。電電公社の資産を並べると全電柱の資産が莫大なものであることが分かる。明治以来、一本ずつ積み上げてきた時間と量は国の財政を傾けるほどのものだったろう。
 そのころ、中国は電化の緒に就いたばかりで、あの大きな国土に電柱を配置するのに何年かかるのだろうかと専門家に聞いてみた。専門家はもう電波の時代に入っているから、中国には電柱はいらないでしょうと言う。飛び級のように次の世代に行けるのなら「電柱時代の投資は倹約できる」。こう考えると、あらゆる工業品は遅く開発に着手した方が得ということになる。戦後、日本は焼け野が原に再建した鉄鋼をはじめとする諸工業が売れまくって、成長率が14%などという時代もあった。
 中国は先進国の物品を仕入れ、最新の工場を建て、先人の発明を生かして〝飛び級〟を連発してきた。12年の党大会で中国共産党は20年の実質GDPを「10年比で倍増する」との目標を決めた。
 中国の飛び級的発展が始まったのは2001年にWTO(国際貿易機関)に加入してからである。もともとWTOは各国間の貿易をスムーズに行って、質、量ともに世界を豊かにする目的で設立された。自由主義、自由貿易が加入条件になっているが、先進自由主義国は、中国が自ら身を律するようになり、自然と自由主義経済に染まってくるだろうと期待した。WTOの規則には知的財産権の侵害や産業の育成に、政府補助金などは出さないと厳しく禁止している。しかし中国は禁止事項を無視して、飛び級に飛び級を重ね、GDP世界2位の大国になった。一方で発展途上国向けの補助金も貰っている。軍事力は2049年には米国を追いこすと公然と宣言した。
 先人の知恵を盗んで先陣を追いこす中国の様を見てトランプ米大統領は激怒した。WTOで貿易上の問題が起きた時は、当事国同士が集まり、まず国際通商法の専門家らが裁判官となって審理する。納得いかなければその上に〝二審〟の上級委員会に上訴できる。上級委員会は7人で構成されているが、トランプ氏が交代を認めず、目下6人が欠員。トランプ氏があえてWTOを機能不全に陥らせたのは、取り締まりできない機関は無用と言いたいのだ。
 日本はASEAN10ヵ国に中、韓、印を加えたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)構想を取りまとめ中だが、インドが加入を渋っている。トランプ氏の考え方は既成の機関は偏っている。多数決で決めるようなWTO、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)、RCEPなどの機構は不要だ。自らの力で2国間折衝に持ち込んだほうが良いと確信しているようだ。
(令和元年12月18日付静岡新聞『論壇』より転載)