アメリカが世界銀行の中国支援に反対

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 「世界第二の経済大国の中国が世界銀行から開発途上国並みの巨額の経済支援を受け続けていることは不当だから止めるべきだ」――アメリカのトランプ政権が公式にこうした抗議を表明し始めた。
 日本は世界銀行にはアメリカに次ぐ二番目の額を出資しており、中国への直接の政府開発援助(ODA)を終了したのになお間接ながら対中援助を続けていることになる。
 
 1946年に創設された世界銀行は開発途上国の経済成長と貧困削減を目的として特別の低金利の融資や技術供与、政策助言などをする国際開発機関である。現在の加盟国は189ヵ国、本部はアメリカの首都ワシントンにある。加盟国は経済開発の度合いに合わせて、援助を受ける国と援助を供する国とに分けられる。
 この世界銀行は昨年12月に「国別パートナーシップ枠組み」と題する新たな国別支援計画を決めた。そのなかで中国に対して2025年まで毎年、10億ドルから15億ドルの金融支援を続けることを決定した。
 中国は、現在は世界第二の経済大国に成長しながらも、世銀ではなお援助を受ける国として扱われ、一般の商業融資より低い4%台の金利での援助融資を受けてきた。
 中国は1981年に世銀に加盟して以来、援助を受ける国として2018年までに総額600億ドルに達する援助融資を得てきた。この間、中国の経済は急成長を続け、2010年にはGDP(国内総生産)では日本を抜いて世界第二位となった。だがなお世銀からは継続して援助を受けてきた。
 この状況に対してトランプ大統領が昨年12月上旬、ツイッターで「なぜ世界銀行は中国に援助融資をするのか。こんなことがあってよいのか。中国は独自の資金を豊富に持っているのだ」と抗議の意を表明した。その背後にはアメリカ政府が中国への支援の継続を決めた「国別パートナーシップ枠組み」への反対を公式に明らかにしてきた経緯がある。
 アメリカ政府は世銀への最大出資国で世銀の総裁もアメリカ財務省出身のデービッド・マルパス氏が務めている。アメリカ側では中国がなお援助融資を受けていることに対してトランプ政権だけでなく議会上院の共和党多数派からも明確な反対がすでに出ていた。だが世銀では多数決でアメリカ側の意見は排されてきた。
 アメリカ側の見解についてアメリカ政府と世界銀行の両方で高官を務めた開発援助の専門家ダニエル・ルンデ氏は(1)中国は世界でも最大額の外貨約3兆ドルを保有しており、開発資金には国際機関からの支援を必要としない(2)中国は国民一人当たりのGDPでもすでに9,500ドルに達し、援助受け入れ国を卒業した(3)中国は国際的な開発事業では自国主体のアジア・インフラ投資銀行(AIIB)を保有している(4)中国は世銀から得た5,000万ドルの資金を新疆ウイグル地区のウイグル人弾圧の「教育・訓練プログラム」に直接、投入した――という諸点を提起して、中国はもう世銀の支援を受けるべきではなく、世銀からの資金を自国の軍事増強や人権抑圧政策などに回すことにもなるとも指摘した。
 ルンデ氏は総括として世界銀行の中国への援助融資はこんご5年ほどの間に大幅に削減して、やがてはゼロにすることを主張していた。
 トランプ大統領のツイッターでの反対意見は政府や議会のこの種の総意を踏まえての抗議表明だったわけである。アメリカは世銀の各国からの出資金のうち最大比率の約17%を占める470億ドルを出しているが、なお自国の主張を通すことができず、最近の中国への厳しい封じこめ政策もあって、世銀の中国への対応に不満を募らせてきた。
 一方、日本は世銀には2018年の時点で出資金全体の約7%、199億ドルを提供し、全体でも二番目の出資国となっている。日本は中国に対して2018年までの約40年間、二国間の政府開発援助(ODA)として総額3兆6,000億円を供与してきた。だが中国の経済力の増大などでもう開発援助は必要ないという判断を下し、ODAの完全停止となった。
 だが皮肉なことに日本の世銀への公的資金の一部はまだ中国への援助に使われているという実態がこのトランプ政権による問題提起によって確認されたわけである。世銀の中国に対する異様な厚遇措置は日本にとっても考えねばならない課題だといえる。