今月11日に行われる台湾の総統選挙は今後の台湾の在り方を決定付ける重大な選挙となる。事前の予想では民進党の現職大統領・蔡英文氏が優勢で、蔡氏が勝つと台湾は1国2制度を捨て去り、独立への道に踏み切ることになるだろう。対抗馬の国民党の韓国瑜(ハンコクユ)氏(高雄市長)は自らの親中色を薄めようと躍起だったが、選挙を前に香港の騒ぎを見せつけられてがっかりしたことだろう。
中国の習近平国家主席は昨年1月、高度な自治を認める「1国2制度」で台湾を統一する旨を説いていた。ところが香港で示された1国2制度のやり口は「逃亡犯条例」を改定して、身柄を中国本土に連れて来る、というものだった。中国は英国から香港を返してもらうにあたって「50年間は香港の現体制を維持する」と約束したはずが、まだ25年も経っていないのに約束を反古にした。これには香港市民ぐるみの反発が起こったが、台湾にも中国との「1国2制度」の約束は守られないとの不信感を抱かせた。
習近平氏の地位は盤石である。中国憲法は中国共産党を守ることを目的とし、習氏の任期は無限である。習氏は最強の地位を固めたと確信し、香港・台湾問題を見くびったのか。
今、世界中でウィグル、チベットの人権問題が叫ばれている。中国にとっては事を起こすのにはまずい場面だ。それでも強硬措置を取るのは、最後は軍事力が決すると覚悟しているからなのか。香港の弱さは自ら軍事力を持たず、世界に市民世論を示し、助けを貰うしかない。最後は天安門事件の再来だろうか。
一方の台湾は自前の軍事力を持っているうえ、米国には台湾関係法が存在する。同法は中国を国連の常任理事国として認めた際、それまで台湾と結んでいた約束を引き継ぐ趣旨である。その中には軍事支援も含まれる。最近も戦闘機の売却を打ち出したが、韓国に売る兵器より、一段格上の武器をあてがっている。一方の中国は台湾が国交を結んできたキリバス、ツバル、ソロモン群島などを味方に入れ、台湾孤立化の政治工作を行っている。台湾には外省人(大陸出身者)を秘かに送り込んで将来の中国派を温存しようとしている。最近オーストラリアで中国が政治家を買収したスキャンダルが発生し、豪政界は法的に中国資金を遮断した。
クリミアでロシアはひそかに住民を入れ替えて、ある日突然、選挙で多数派をとり、併合した。中国がこの手を使うこともある。
中国には14億人の民がいる。どの国にも入り込んでチャイナタウンを形作る。中華民族は現地人と同化せず生き抜く力がある。同族のつながり、カネ、騙し、どんな手でも使う。このような国に対峙する手段は軍事力しかない。李登輝政権は台湾海峡危機後、中国の弾道ミサイルを抑止するには自らもミサイルを開発するしかないと言っていた。日本が尖閣を死守することも台湾防衛に繋がる。