オリンピックを控えて、あらゆる競技が公平性を厳しく追及することに腐心している。野球、ラグビー、テニスなどがビデオで判定する制度を取り入れたのは選手、観客共に公平感を満足させて清々しい。
いま貿易や経済の世界の混乱の元は、単純に裁けた経済案件について証拠がないとか、裁く判事がいないからである。貿易の裁判所といわれたWTO(世界貿易機関)などは裁ける権限を持った7人のうち1人しかいない。人事を決めさせないのはトランプ米大統領で、大統領再選後にWTO大改革をやると言っている。トランプ氏は大統領に就任した途端、TPPやパリ協定などから脱退し、経済の“常識”をいきなりひっくり返した。
貿易はWTOを基軸にしたルールで運営されてきたが、実は中国に無視され、利用されてきただけだった。自由経済、資本主義経済を建前とするからには、「フェアな競争を行って負ければ退出する」というルールを守らなければならない。安倍総理はアメリカ抜きの11ヵ国・TPPをまとめるに当たって、ベトナムの扱いに難儀した。企業が国有だから経営困難になった時、補助金で助けてしまえば、他国の民間企業と“競争”することにならない。ベトナムが正直に競争の規則を守るかどうかは各国注視の的になるだろう。
中国は2001年にWTOに加盟してから毎年、GDP10%以上もの成長を続けた。中国企業群の中でもずば抜けて成功したのはファーウェイである。たまたま2018年12月26日付のウォール・ストリート・ジャーナルを保存していた。題名は「ファーウェイはいかにして成功したか」というもので、農村への浸透や欧米企業との提携など、年間の開発費(R&D)に130億ドル(約1兆4,000億円)もの資金を投じたという。
同企業は今や世界一の大企業に成長した。ところが同紙の昨年12月27日付けの電子版を見ると、中国政府のファーウェイへの政府補助金は750億ドル(約8兆2,000億円)に上るという。この記事では「ファーウェイは政府の公的支援によって製品価格をライバルよりおよそ30%抑えられている」とするアナリストの声を紹介している。
WTOはこういう“不正”を立証もできなければ制裁を加えることもできない。中国の軍需産業は米国を超えるところまで到達している。自由主義国家と共産主義国家を共通のルールで統制することは困難だ。かといって現状のまま推移すれば自由主義体制は潰れる。ましてWTO改革まで待てば勝負がついてしまう。そこで日・米・欧は第5世代(5G)移動通信システムや次の6Gの分野で密接な連携をしていくことに合意した。さらに40ヵ国がサイバー攻撃に使われる可能性がある軍事目的のソフトウエアを輸出規制の対象とすることでも合意した。共通ルールが通用しないなら物品ごとに規制するか、トランプ式関税で調整するしかない。
(令和2年1月29日付静岡新聞『論壇』より転載)