新型コロナウイルスによって、世界中が引っ掻き回されているようである。“病気”に過ぎないのに自動車や鉄鋼の生産まで止まり、60ヵ国が中国人入国制限を打ち出している。このパニックを象徴するのは、2月7日武漢市で亡くなった李文亮医師だ。李氏は新型肺炎が「原因不明」とされていた段階で、友人らに危険性を訴え、「デマを流した」として警察当局に処分された。「亡くなった」との報道が出るとSNS上で「英雄を失った」と李氏を悼む声が爆発的に広まった。
一方で当局は“集合”を嫌って井戸端会議を解散させたり、無人機で監視したり、麻雀卓まで破壊して回っていたという。こういう全体主義的強権政治が、14億人の国で行われていることに底知れぬ嫌悪感と恐怖を覚える。この全体主義国家は、昨今出現したわけでもなく既に70年弱経っており、2049年の建国100周年を目指して、大股で歩いてきた。
大股で歩けるようになったのは、2001年中国のWTO(世界貿易機関)加入を認めてからだ。それまで西側世界は全体主義国家との付き合いを極めて用心深くやってきた。ソ連(現ロシア)、中国に対して武器に利用されるものは部品さえ売らなかった。しかし米ソ冷戦がソ連の敗北で終わると、米国は中国を資本主義市場で遇する政策に転換した。生活が豊かになれば中国も自由と民主主義を尊重するようになると考えたからだ。しかし自由市場に招き入れられた中国は一方的に自由主義市場を利用した。その一例を上げればファーウェイだ。今やあらゆる半導体製品にファーウェイが取り入れられている。各国との半導体競争に当たって、ウオール・ストリート・ジャーナルの調査報道によると、中国政府はこれまでに8兆2千億円の政府補助金をつぎ込んだという。WTOでは自由競争に政府補助金を使うことは禁止事項である。
「一帯一路」と称して中国は世界中に港湾、主要駅を建設している。次々に計画を膨らませて、当該国の財政を破綻させ、経営権を奪うという実にえげつない手も使う。
中国の強烈な全体主義体制は1989年6月4日の天安門事件で強化された。軍が戦車でデモを鎮圧したのである。殺された人数は何百人とも何千人とも言われる。世界中が中国の全体主義的生き方をいかがわしいと思って敬遠している時に、中国政府の要請によって92年に天皇は訪中、中国を“一人前”の国として世界にカムバックさせた。
その後2009年民主党政権時代、習氏が副主席の時代、中国政府は天皇との会見を希望。「天皇との会見は1ヵ月前に申請する」という決まりまで破られた。国賓の無理強いと習氏のハク付けのためだ。当時、世界は中国を放っておいても痛みを感じなかったが、現在は中国との関係がより深まっている。長い日中の将来を考えれば中国とは未来永劫一線を画して付き合うべきで、日本はその意志を天皇の出所ひとつで表現できる。
(令和2年2月12日付静岡新聞『論壇』より転載)