早急に憲法を改正し、強力な緊急事態法を制定せよ

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政策提言委員・元公安調査庁金沢事務所長 藤谷昌敏

新型コロナウイルス対策における緊急事態宣言
 安倍晋三首相は2月26日の新型コロナウイルス感染症対策本部会合で「多数の方が集まる全国的なスポーツや文化イベントについて、今後2週間は中止や延期、規模縮小の対応を要請する」と表明した。さらに感染が拡大する韓国南東部の大邱市と慶尚北道清道郡に滞在歴のある外国人の入国拒否も決定した。これまで入国拒否は新型肺炎が発生した中国の湖北省と感染者が多い浙江省に限っていたが、初めて中国以外にも広げた。
 新型コロナウイルスの感染が拡大している北海道では、鈴木北海道知事が28日から3月19日までの3週間、「緊急事態宣言」を出し、道民に向けて、不要不急の外出を控えるよう呼びかけた。
 日本では、憲法に国家緊急権が定められていないため、強制力のある緊急事態宣言を出すことは難しい。先の北海道知事も記者会見で外出自粛について「私の立場ではお願いしかできない」と述べ、法的根拠はないと説明している。これについて一部の法律家が「例え要請だとしても知事の発言は、事実上の行動制限と捉えられる。憲法が保障する移動の自由に関わる措置を、法的根拠もなく行うのは非常に危険だ」と非難した。
 ここで言う「緊急事態宣言」とは、本来、国の治安や国民の安全が危機にさらされた場合に、政府が発令するもので、戦争、革命、内乱、大規模な災害、疫病など、社会秩序が重大な危機に直面した状態に出されるものである。海外の多くの国では、憲法上、大統領や内閣に権限を集中する緊急権が定められており、緊急事態が起きたときは国家緊急権を使って国民の人権の制限を行うことができる。
 
緊急事態宣言と戒厳令との違い
 「緊急事態宣言」を「戒厳令」と同義ととらえて、戦前の抑圧的な施策と人権侵害を想起して強く反対する者がいるが、両者は別物である。「戒厳令」の戒厳とは、戦時や自然災害、暴動等の緊急事態において、軍隊をもって一地域や全国を警備することであり、憲法や法律の一部の効力、国民の権利を停止もしくは制限して、行政権や司法権を軍部の指揮下に移行させることをいう。「緊急事態宣言」とは「戒厳令」が軍隊の警備やその指揮下に行政権や司法権が入ることを前提としている点で大きく異なる。
 我が国においては、大日本帝国憲法制定前に規定されていたのが1882年(明治15年)8月5日太政官布告第36号「戒嚴令」である。その後、1889年(明治22年)2月11日に公布された大日本帝国憲法の第14条において、「天皇は戒厳を宣告す。戒厳の要件及効力は法律を以て之を定む」と規定された。戒厳令には地域区分があり、臨戦地境(戦時下、警備を要するとされる地域であり、軍事に関する事件に限定されて、地方行政や司法事務が地域の軍司令官の管掌となる)、合囲地境(敵に包囲されている、または攻撃を受けている地域であり、地方行政や司法事務が地域の軍司令官の管掌となる)の二つに分けられるが、このうち合囲地境は一度も実施されなかった。
 
憲法改正による国家緊急権の明記を急げ
 我が国においては、日本国憲法に国家緊急権が定められていないものの、政府としては「憲法は必ずしも国家緊急権を否定するものではない」と解釈しているようだ(学会では「日本国憲法は国家緊急権を認めていない」とするのが多数説)。しかし、憲法上の明文の規定を欠くため、緊急事態において、どのような国家緊急権を発動できるのかが不明確であり、結局は超法規的措置で国家緊急権を発動せざるを得ないことになる。憲法が保障する基本的人権を制限・抑止することを政治的に安易に決定することが法治国家として果たして正しい選択なのかという疑問が沸く。
 今回の新型コロナウイルスにおいて、発症したにもかかわらず、スポーツジムに行ったり、飲食店に行ったりする例がみられる。こうした感染者をすべて隔離・拘束することは現実問題不可能であるが、現在の単なる外出自粛要請と法に基づく強制力を持った隔離では抑止効果がまったく違う。
 既に複数の国は、強制力を持った緊急事態宣言を行っており、例えば、米国は、1月31日、「公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、過去14日以内に中国に滞在したことがある外国人について、米国民の直接の親族と永住者を除き入国禁止とするほか、過去14日以内に湖北省を訪れていた米国民も帰国後最長で14日間、強制的に隔離するとした。こうした強制的な隔離策をとらなければ、今回の新型コロナウイルスのような未知の疾病を封じ込めることはできない。
 憲法改正に反対する人々は、現在の憲法を平和憲法と称して崇めるが、平和が自然発生的に現れて、何もしなくても維持されるのではない。そこには平和を希求する人間のたゆまぬ努力と平和維持の強固なシステムが必要とされる。現在の憲法では、あらゆる国家的危機に対応できないことは明らかであり、早急な憲法改正とともに国家緊急権の明記、さらには強制力のある緊急事態法の制定を強く求めたい。