新型コロナウイルスの発生を巡って、中国外務省の趙立堅副報道局長が3月12日、ツイッターに「武漢での流行をもたらしたのは米軍かもしれない」と書き込み、「米国陰謀説」をのぞかせた。これに対して米国のスティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)が激怒し、翌13日中国の天凱駐米大使を国務省に呼び、「厳重に抗議」した。
2003年から4年にかけて、中国は広東省発症のSARS(重症急性呼吸器症候群)を世界中に流行させた。死亡率が高く重症に陥る病気である。SARSなどと病名の頭文字を並べただけで呼ばれるため、その悲劇の記憶が残らない。せめて「広東サーズ」とでも呼んでいれば、中国も「またか」と言われないよう行政に医学的配慮をしたかもしれない。
いずれにしろ中国が「武漢コロナウイルス」を発症させたことは間違いない。各国の非難が高まるにつれ「米軍の陰謀説」を流して責任逃れに出る気配だ。楊潔篪共産党委員が習主席の訪日を巡る話し合いに来日した時には、「中国は日本にマスクと医療器具を贈る」などと宣伝したものだ。世界の人に困っているのは日本で、中国が助けている印象を振りまいた。なにしろ国際仲裁裁判所の見解などは「紙屑だ」と公言する国である。
香港のサウスチャイナ・モーニングポストは3月13日、現段階で確認されている新型コロナウイルスの最初の感染者は武漢市(湖北省)で11月17日だとスクープした。中国政府の非公式資料に基づくという。中国政府は最初の感染者は12月8日に発症したといっているから、23日間は秘匿したことになる。中国当局は12月31日、「原因不明のウイルス性肺炎」を27人が発症していると初公表。1月20日になって専門家が「人から人への感染」も認めた。2ヵ月伏せたに等しい。
武漢市の女医が地元当局による「口封じ」を中国誌「人物」に証言した。記事は10日にインターネットに公開されたが、すぐに当局に削除された。2月に新型肺炎で死去した李文亮医師は女医の同僚で、武漢の公安当局から訓戒処分を受けた。
米軍が武漢で各国軍隊とスポーツ大会に加わった事実はあるが10月のことで病気との接点はない。
世界中の混乱から一人身を守ったのは台湾である。人口2,300万人の台湾で感染者数は59人にとどまっている(3月13日現在)。蔡政権は12月31日に武漢市が「原因不明の肺炎患者を確認した」と発表するや、同日直ちに武漢市からの旅客の検疫を始めた。1月22日に蔡総統は国家安全会議を開き「コロナウイルス拡散防止に全力を注ぐよう」命じた。世界に衝撃を与えた武漢封鎖の前日のことだ。24日にはマスク輸出禁止、26日には湖北省住民の入国を禁じた。2月2日には小中高の新学期を2週間延期した。言論の自由があったからこそのスピードだ。
(令和2年3月18日付静岡新聞『論壇』より転載)