「イタリア『武漢コロナ』死亡者数世界第1位」
―イタリアに感染者が多い理由―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 イタリアの「武漢コロナ」による死者は23日6,000人を超えて、全世界で1位となった。0.2%と言われた武漢コロナの致死率がイタリアだけなぜ9%と突出しているのか。イタリアと中国の関係を知れば、この数字はそれほど不思議ではない。
 昨年のイタリアへの中国人観光客は400万人。なぜこんなに多いかと言えば、純粋な観光客の他に親戚訪問を兼ねている人たちもいるからだろう。イタリア在住の中国人は約40万人と言われるがこれは合法移民の数。とくにミラノやフィレンツェという大都会に移住している。住み着いた理由は、北部の大都会には繊維産業や、皮革産業での雇用があるからだ。イタリアの町はどこでも「バール」と呼ばれる喫茶店がある。200円ぐらいでコーヒーを立ち飲みできる。イタリアの風物詩のようなもので「バール」がなければイタリアではない。労賃の安い中国人が雇われ、いつか店を買うという循環が生まれた。ミラノの「バール」の1割以上が中国人の経営と言われる。
 フィレンツェ市の近くのプラート市は繊維製品や皮革製品の産地だが、ここも少子高齢化で職人が足りず、中国人を雇う。これも中国人だけで工場経営を始める。れっきとした「メイド・イン・イタリー」だから世界相手に商売ができる。したがって本国に帰らず終身移住である。「中国人は決して死なない(チャイニーズ・ネバー・ダイ)」という言葉がある。誰かが死んでも死亡届を出さずに、不法移民が成り代わると言われる。
 プラート市は20万人規模の都市だが80年代から中国人が増え始め今や20%、実に4万人近くの中国人が住んでいる。イタリア警察は何度も滞在許可証の一斉摘発をするが効果はない。実は下手に中国人を追い出すと、バールや小工場は人手が足りなくなる。このためイタリア政府は中国人を呼ぶためシェンゲンビザを発行している。シェンゲン協定はEU26ヵ国内ならどこでも住める権利を有するから、中国人を自国から追い出す根拠は薄い。イギリスに極端に中国人が少ないのは、シェンゲン協定に入らず、任意で東欧諸国から移民を入れているからだ。
 中国人とイタリア人はともに大家族主義である。祖父母の誕生日、孫の卒業式と祝い事があれば一族で大宴会をやる。高齢化も共通点だ。このため爆発的にコロナが発症する条件はそろっている。
 1月23日、中国政府は武漢市を閉鎖した。人口は1,100万人。閉鎖時には600万人が閉じ込められ、500万人が市の外に逃げた。プラート市の中国人の出身地の1番は温州市で2番目が武漢市。イタリアで1月末最初の武漢ウイルスが発見されたのは武漢人だったと記録されている。締め出された武漢人、温州人がイタリア全土の中国人を頼って身を寄せたのは当然だろう。彼らが本国に帰れば、武漢で病気が再燃する恐れがある。
(令和2年3月25日付静岡新聞『論壇』より転載)