「武漢発症『新型コロナウイルス』の感染拡大の教訓」
―原因不明の病気の時には大騒ぎすべき―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の3人の記者が、武漢で新型コロナウイルスが発症する経過を「新型コロナウイルスはこうして広まった。中国の失敗」として3月、2回にわたってまとめている。この記事によって得た私の教訓は「原因不明の病気の時には大騒ぎしなければならない」ということである。
 記者達が最初に見つけたのは武漢市の華南海鮮卸売市場で働く海産物販売業者のウェイ・グィシンさん(57)だ。彼女は昨年12月10日、風邪のひき始めだと思って地元の診療所に行き、仕事に戻った。8日後、彼女は入院するが、ほとんど意識はなかった。記者たちは彼女が世界中を混乱に巻き込んだ病気の最初の患者とみる。
 担当の医師はウェイさんと同様の症状を示す患者を診たがいずれも華南市場の販売業者だとは思わなかった。12月末になって、彼等のつながりを見つけるとウェイさん等を隔離し、上司に報告した。中国当局は他言を禁じ、同僚の医師に漏らすことも禁じたという。うっかり医学部時代のクラスメートに漏らして自己批判文を書かされた者もいた。
 習近平国家主席が1月7日に新型ウイルスの感染拡大防止を役人に指示したあとも、当局は「人から人へ」の感染の可能性を否定し続けた。この結果、武漢では何万もの家族が参加する春節(旧正月)の大宴会が開催された。しかし医師らは「人から人」に感染している事実を12月末から気付いていた。
 中国で最も有名な疫学専門家で新型ウイルス対策のリーダーを務める鐘南山氏は2月、「12月31日には新型コロナウイルスを特定したが『人から人へ』の感染を公に確認するのに時間がかかり過ぎた」と指摘している。
 グラフを見ると1月9日の時点で感染者は44人。1月23日の時点では感染者639人で、この日に武漢などの4都市が封鎖されている。1月初旬時点で「人から人へ」の認識があればパンデミックを避けられただろう。不可解なのは2月の共産党雑誌に公表された習主席の演説だ。習氏は武漢の大宴会が開催された時も、「病気対策を指揮していた」という。
 新型ウイルスの発生源についての最も有力な説は華南市場で販売されていたコウモリ由来の野生動物だろうというものだ。02年から03年にかけて大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の犯人はジャコウネコだった。その反省もなく野生動物を食べ続ける中国人はどうしようもない存在だ。
 ところが、以上の事実をすべて伏せて、中国はWSJの記者3人を国外追放した。しかも病気の原因は不明としらばくれたり、「米国かもしれない」などとほのめかして、他国のせいにしようとしている。正確な事実を積み上げてこそ正常な対策も立てられる。中国の態度は「盗人猛々しい」というほかない。「言論の自由」を確保することが最も正しい政治につながることを理解せよ。
(令和2年4月1日付静岡新聞『論壇』より転載)