JFSSワシントン・レポート(2020.3.8-3.15)
―武漢ウイルス感染拡大の影響―

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政策提言委員・元海自自衛艦隊司令官(元海将) 香田洋二

米国東部夏時間3月9日(月)夜現在
米国、ワシントンD.C.で香田が見分し感じた、コロナ関連の所見を報告する。
あくまでも、香田の個人的所見である。
 
《#コロナ所見1 》3月9日(月)朝
昨日8日の日曜日の朝にD.C.イン。
ANA便はガラガラ、ダレス空港も入国者が極めて少ない。
 
到着後の一日の印象は、ワシントンやアメリカは、翌9日朝、正確には到着した昨日8日の午後から夜にかけての新型コロナの連続感染のニュースで、漸く「大騒ぎ」(中騒ぎ??)が始まったということにつきる。
 
香田の胸騒ぎは、このままいけば我が友邦アメリカは、今までの準備ができていないことから、日本よりはるかに状況は悪く、既に悪くなっている韓国よりも更にひどい状況に陥りかねないというものだ。
 
街は、落ち着いていると言えばその通りだが、過去アメリカに6年間生活をした香田の感覚では、あまりにも無防備ではないかと思った。
 
杞憂であればよいが。
 
トランプ大統領の今までの「虚勢にも似た強がり」が、事態対応をここまで遅らせたのかも知れない。
 
精神的には、東京にいる時よりも「やや不安」というのが正直なところだ。
 
9日(月)夜
D.C.地区の感染者発生と、その場所であるジョージタウンの2つの教会は大きな全国・ローカルニュースになっている。
 
また、D.C.隣接のバージニアとメリーランドでも感染者が出始めていることから、高い関心事項となっている。
 
この地域は、40年前に2年間住んでいたが、既に記憶は薄れ、精緻な地名と位置関係がはっきりとしなかったが、グーグルマップのおかげでニュースの内容がクリアーになった。
 
CNN等の全国ニュースも、例えが変であるが、私がボストンに滞在していた時に起こった、日本の311の「津波と福島第一」の時くらいの時間と内容(要するに「極めて大きな扱い」)で、コロナの全米蔓延への恐れとこれからの対策を報道している。
 
各局の月曜朝のニュースショーも同じ。
 
漸くアメリカが「立ち上がりかけた」というところか。
 
以上、クイックのご参考まで。
 
《#コロナ所見 2 》米国東部夏時間3月12日(木)朝現在
 
9(月)、10(火)両日の各地の感染者の急激な増加により、それぞれの自治体やスポーツ団体や催し物の主催団体が集会の禁止・自粛等のそれぞれの措置を発表した。マスコミの報道ぶりから、漸くアメリカが動き始めたという印象を受けた。
 
また、学校・学級閉鎖や病院への受診指針も、米国社会があえて意図したものではないと考えるが、結果としては日本社会の対応の2~3週間後を追っかけつつ、数日で日本の措置に急速に追いついている、というのが一番正確な表現だと考える。
 
ワシントンの街自体は、目に見える範囲では、それなりに落ち着いている。
 
ただ、ここ2日間のマスコミの報道も加味したアメリカ社会の混乱ぶりは、勿論、9日と10日の状況は、パニックなどには程遠いものだが、#1報告の9日夜にくらべ急速に悪くなっていることは確実。
 
このような中、昨日11日(水)から始まったCSISのコース(3日間)は、17人のコース受講者のうち1人が所属組織の方針で、テレ参加になったほかは、済々と実施されている。
 
米国政府各機関の中国担当者、米軍からの参加者等は、コロナに関しては健全かつ常識的な危機感を持っていると感じられた。
 
同時に、我々は前日の10日(火)夜までの、「まだまだ大丈夫」という相場観が強いニュース報道をもとに判断していたので、事態の急速な悪化により、コロナはどこまで広がるのか、いつまで続くのかという漠然とした疑問が、対処法等が全く未知の状態の中で、参加者の間で静かに広がっているのを感じた。
 
アメリカ社会が、これからどうなるのか、連邦政府や州、各自治体の対応がどこまで信頼できるのか等については、息をひそめて見守っているというのが、個人的な観察に基づいた正直な描写である。
 
このような時に行われた、昨晩(11日)の突然の、英国を除く欧州からの30日間の入国制限というトランプ大統領の発表は、明らかに米国社会にとって大きな驚きと衝撃であったようだ。
 
コース仲間と夕食に出た当日の18:30にはこの決定は公表されていなかったが、夕食中のレストランのバーカウンターにある壁掛けTVでCNNからそのニュースが流れた時は、一瞬、店内がざわついた。
 
突然の大きな認識や情勢の変化ということと対象が欧州という2つの予想外の措置が、その源のように思われた。
 
ホテルに戻った後は、今朝にかけてコロナが終夜のマスコミカバーとなり、12日(木)午前6時前の今も、ほぼコロナ一色のニュースが続いている。
 
単一項目に関する終夜の報道は、少なくとも香田の過去の経験では一度もない。
この突然の方針(欧州諸国からの入国制限)決定は、米国社会に爆弾を投げ込んだことは間違いない。
 
昨晩からの異例のマスコミの連続カバーが与える米国社会への影響は、今日、お天道様が出てからでないと判断できない。
 
米国政府の決定を受けたニュースから、連邦政府を含む米国社会の対応策の打ち出しが急速に早くなったことと、その内容が厳しくなると同時に、それを徹底させるという、米国社会の方向性は明確になったように思われた。
 
この措置の一番の効果は、トランプ政権が、今までの選挙対策を意識した「準備はできている」という立場を一変さて、事態がここまで緊迫(悪化)しており、国家的な対策を即時に必要としているということを3億の国民に明確に認識させたという点であると言える。
 
 これから今日のコースのシミュレーションの準備のため、一旦中止する
06:00 3月12日米国部東夏時間
 
《#コロナ所見  3 》米国東部夏時間3月13日(金)朝現在
ここで今までのメモの補足をする。
 
今回のCSISの「一帯一路コース」への参加は、昨年11月には申し込み、参加が認められていた。
 
ただ、昨年末以来の新型コロナの流行と世界的な蔓延を受け、2月最後の週から今回のコースへの参加について再検討が行われ、週に数回の調整と情報交換をCSISと行っていたところである。
 
要するに、参加が認められない可能性とその場合の処置についてである。
 
また、いつもの通りだが、今回の訪米の機会を利用した他のシンクタンク訪問も計画していたが、先週の頭(3月1日前後)の段階で、米国CDCの指示・方針により、基本的には、個人ベースのシンクタンク等施設内での面会を伴う訪問はできなくなっていた。施設外で個人的に会うことは制限していなかったようだ。
 
今回は、そのほかにも防衛産業との意見交換も計画していたが、CDCの指示もあり、各社とも施設内のミーティングはできなくなった。
 
また、上院情報局上級スタッフとの会議もキャンセルになった。
 
このような中で、ハドソンは副所長との個人的関係と人数を最低限に絞るということで、先方が腹を決めたこと、およびCSISは X千ドルの授業料を既に徴収している上、参加外国人が、最終意思決定の3月6日(金)現在「かろうじて無罪」の日本からの香田だけ、ということで、CDCの通達はあるものの異例の開催になった。
 
このような状況の連続変化により、毎回「ハラハラ」しながらCSISとメールで参加の可否の調整していた。
ということで、米国のCDCの意向を反映できる組織や機関は、2月末の時点できちっと対応はしていたことは間違いない。そこは徹底していたと考える。
 
ただ、その時は、まだ「日本やイタリア」等の一部の外国が容疑者であり、コロナの米国への持ち込み防止に主眼を置いた対策であったと思われる。
 
結局「イタリアと韓国」はイラン、中国(早く意思決定をしたが)とともに、「有罪」判決を受け、入国拒否となったたことは、ご案内の通りである。
 
このようなこともあり、3月8日のDC到着時の入管の対応と米国社会の印象は、「日本は怪しいもののまだ有罪ではないので入国を認めてやる」といったものだった。
 
しかし、既報のように3月8日(日)午後から3月9日(月)にかけての患者の爆発的増加により、「持ち込み防止」(まだ米国は大丈夫)から、「持ち込まれた」(既に堤防は決壊した)という現状認識に、米国政府や社会が切り替えたことを受けた具体的対策が、まさに3月9日夜から始まったように見受けられた。
 
最初の2報はCDCの指示を直接受けなかった米国の一般社会の反応の一端をリポートし、この第3報でCDCの指針も加味した米国社会の様子を報告した次第である。
 
また、昨日12日(木)のお天道様が出た後の一日は、ペンス副大統領が朝一番でTVニュースショーに生出演して直接政府の立場を説明したことや、各種対策が矢継ぎ早に出されていること等、ニュースはほぼこの件1 本の観となっているが、社会は概して落ち着いている。
 
今の流行言葉は「Self Quarantine」(自発的隔離)である。日本と同じように、不用意に病院に行くことなく、不安がある場合に最初はじっくりと、自宅等で静かに待機観察することが、医療秩序を最適に保つということである。
 
特筆すべきは、米国議会医務局やドイツ等の欧州諸国が、最悪の場合国民の約3分の1が感染する恐れがあると警告しているのに対し、ペンス副大統領の生出演でも、MCの執拗な質問に対しても、米国政府としての見積もりを具体的に示さない、あるいは示せなかったところに、トランプ政権に対する不安感があるように見受けられる。
 
要するに議会医務局が正しければ、最悪の場合米国で9千万人前後が感染するということであり、これは衝撃的である。この辺りも、ニューヨーク株式市場の大暴落の一因であることは間違いない。
 
最後に、細部には触れないが、米国一般社会における対策の発動は、日本に大きく後れを取ったとはいえ、内容と速さと徹底ぶりは、先発国日本の相当上を行っているように感じられた。
 
更に、作戦実施の段階となった今は、もはや意味を持たないような政府への文句や不満が出ないところは、良し悪しは別として、戦争で鍛えられている米国社会の強さでもあるという所見である。ここは、1億総評論家の観がある日本とは異なる、鋭い「コントラスト」を米国社会がなしているところであろう。
 
《#コロナ所見4》米国東部夏時間3月14日(土)朝現在
現在、14日(土)午前5時40分過ぎ。
 
昨晩はコースが終わったこともあり、有志で、やや高級なイタリアンレストランに行った。
 
その直前に、国家非常事態宣言が出され、レストランに着いたときに駐日大使指名のニュースがウェブニュースで流れた。レストランは、手ごろ価格で高級感が評判の人気店だが、学校の春休みを控えた金曜日というのに、閑散としていた。アメリカ社会も本気で備えているということか。
 
閑話休題、駐日大使(ワインスタイン氏)指名はアメリカ人にとっては小さなものだろう。特にコロナとの戦いを開始したばかりの米国社会と多くの米国人の関心が、コロナ対策に行くことは当然だが、今回のCSISのコースだけではなく、香田が年平均15回程度参加してきた国際会議における日本の評価は極めて高いものがある。
 
今回も、コースは中国の「一帯一路」が主題だったが、CSISのコースでさえ日本の話題なしでは進まなかったのも事実である。
 
また、3月8日(日)の入国時に日本は「容疑者」的な立場だったが、わずか5日間で、それは吹っ飛び、コロナの悪い話に関しては日本の「に」も出なくなっている。
 
我が国内でも色々と言われ、また、事実として政府、厚労省の不手際は間違いなくあったが、日本のように対策を地道にやると、今アメリカ社会が直面しているような事態の急激な悪化だけは何とか防ぎ、水平飛行をできることの証だと思う。
 
問題はもちろん、いかに早く安全に着陸させるかであるが・・・
 
そのような中、今朝早く起きて、日例のニュース見出しのスキャンをしていると、いくつかの国内電に朝日新聞の謝罪記事が出ていた。
 
ヤフーニュースを引用すると「小滝編集委員は13日午後に『あっという間に世界中を席巻し、戦争でもないのに超大国の大統領が恐れ慄く。新コロナウイルスは、ある意味で痛快な存在かもしれない』」とツイートしたことに対する謝罪であった。
 
朝日の言い分は、投稿によりウイルスの威力の大きさを表そうとしたとして、謝罪文において「『痛快』という表現は著しく不適切で、感染した方や亡くなった方々のご遺族をはじめ、多くの皆さまに不快な思いをさせるものでした。本人は過ちを認めて『心からおわびします。深く反省しています』と述べています。」としている。
 
このポイントは「『痛快という言葉を使ったこと』による不快な思い」に対して朝日が謝罪をしたということである。
 
これは、一見「的」を射たように見えるが、実はここに朝日の反米体質が隠れていると思う。このニュース謝罪戦術により、ツィートの真の目的である反米には全く触れることなく、「痛快という用語の使用と不快感」に論点をすり替えて、朝日が本来言いたかったこと、即ち、①反米と②トランプ大統領への嫌悪と攻撃という政治的主張に加え、③現下のアメリカ社会の混乱に対する軽蔑と、「ざまぁ見ろ」的な、他人の不幸を楽しむ朝日特有の陰険さを伝えようとしているのではないかと、こちらで米国社会の変化の転換点を目撃した香田の目には映った。
 
③は911の直後に、当時の野党某女性議員のネット上での「つぶやき」と軌を一にするものだろう。当の議員は社会の非難を浴びて後に謝罪したが・・・・
 
また、この編集委員は、一番恐れ慄いて、人権や報道の自由(もともとこの国にはないが)さえ無視して強硬策を採った中国と習近平主席には全く触れていない。
 
要するに、このツィートは個人の主観に基づく、「趣味」に属するものであり、客観的な全体の俯瞰や、似たような国(米中)の比較が全くない。
 
この、編集委員は、単に朝日新聞という公器を小利口かつ狡猾に利用したツィートで、自分の一方的な主張をした確信犯である、ということが問題ではないかと考える。
 
この点こそ、ここで述べたような本質を隠した本人と朝日の手法であることから、このツィートと朝日新聞の処置に対する、他のマスコミや識者の識見が問われるところだろう。
 
今から空港に向かう
3月14日(土)07:00米国東部夏時間
 
《#コロナ所見 5 》 最終(日本時間3月15日夜現在)
本日、午後3時過ぎ、成田に安着。帰りの便もガラガラ。スムーズに入国して帰宅したが、帰路感じたことは、わずか1週間で激変し、国を挙げてコロナに立ち向かい始めた米国社会を直接見た香田にとって、「日本はやけに元気がいいな」ということだった。要するに、「つい先日の3月8日のワシントン到着直後に感じた、当時の能天気な米国社会のはるか上を行く観さえある、警戒心が弛緩した、あるいは全く無防備な我が国社会」ということが強く印象に残り、心配になった。
 
論議はあったものの断行した安倍総理の休校措置からわずか2~3週間程度の「ちょっとした頑張り」で自己満足し、警戒を解いてよいというムードさえ感じられるが、これを社会全体で引き締めないと、我が国も坂道を転げ落ち始めた欧州や米国の道を辿ることにならないか、と心配している。
 
これも、最初の報告で述べたものと同じ、香田の杞憂であればよいのだが・・・
これで、訪米リポートを終了する。