コロナ後も米軍は対中軍事力を増強する

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 アメリカ軍部が今後6年間に中国を主対象とするアジア太平洋地域での軍事力の特別強化を計画していることが明らかとなった。いま全世界を揺さぶる新型コロナウイルスの大感染が収まった後の米側の厳しい中国敵視の展望が浮かび上がったとも言えそうだ。
 
 米軍のインド太平洋軍のフィル・デービッドソン司令官はアメリカ議会に特別の報告書を出し、日本や台湾を中心とする西太平洋地域で中国を抑止する目的の軍事的措置をとるための追加予算合計約200億ドルを要求したことが4月9日までに明らかとなった。
 アメリカ政府は国防予算として議会に対して2020年度分に総額7,040億ドル、2021年度分に総額7,050億ドルをすでに求めているが、インド太平洋軍司令部の要求は中国の軍事的脅威の増大に備えての特別な緊急措置として追加予算200億ドルを2021年度から2026年度までの予算に新たに加えることを要請している。
 このデービッドソン司令官の報告書の内容はアメリカの複数のメディアの報道により、明らかとなった。
 同報告書によると、同司令官は以下の軍事的措置をとるための追加予算を要求している。
 デービッドソン司令官は報告書で、「インド太平洋の軍事的均衡がアメリカにとって好ましくない方向に向かっている」と強調し、「敵対国が軍事力で現状変更を試みる危険性を高めている」と警告した。同報告書は「優位の再獲得」と題され、アメリカ側が中国に対する軍事的な優位を再び確実にする、という意味が明白だった。
 同司令官が追加予算請求のために議会へ提出したこの報告書では、米軍の西太平洋での潜在敵国として中国の名を明記し、しかも中国人民解放軍が策定した海上の防衛線の第一列島線、第二列島線という呼称をはっきりと謳って、その中国側の軍事態勢への抑止力強化を強調した点が特徴だった。
 同司令官の報告書は「中国が軍事力によって政治や経済面での目的を達成するという行動を抑えて、できないようにすること」という表現でアメリカ側の軍事力強化の目的を明記していた。
 トランプ政権下の米軍首脳のこうした議会への要請は異例であり、アメリカが今後も長期間に亘って、インド太平洋地域では中国を主要な脅威とみて、その抑止に努めていく基本戦略を明らかにしたと言える。
 デービッドソン司令官のこの報告書は米軍が将来、西太平洋地域でとる意向の手段として以下のような諸点を記していた。
 
・グアム島の米軍基地の防衛強化のための長距離精密兵器主体の防空能力を統合する。そのために敵の弾道ミサイル、巡航ミサイル、極超音速兵器を探知する新レーダー網やグローバルな脅威を追尾する宇宙拠点のレーダー網を強化する。
・第一列島線(中国軍が対米防衛ラインとして決めた九州を起点に、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島にいたる作戦ライン)に対する地上配備対艦ミサイルの攻撃能力と防空能力を高性能兵器の新配備によって増強する。
 
・第二列島線(中国軍が対米防衛ラインとして決めた伊豆・小笠原諸島からグアム・サイパンを含むマリアナ諸島群などを結ぶ作戦ライン)に対する防空ミサイル防衛を増強する。
 
・中国側がA2/AD(接近阻止・領域拒否)によりアメリカ側の航行の自由や重要な水路、空間への接近を制限する能力を高めていることに対抗して、地上、海上配備の高性能兵器をこれまでより分散して新配備する。
 
・中国軍の軍事増強への有効な抑止力としてインド太平洋地区の同盟諸国との軍事演習を強化する。そのためにはアラスカ、ハワイ、カリフォルニアの軍事的な施設や基地を新たに使用する。
 
・2015年に着手された「海洋安全保障構想」(MSI)によるアジア太平洋地域の同盟諸国との安全保障協力を当初の予定よりも32%増額した予算によって更に増強する。
 
・アメリカとインド太平洋でのその同盟諸国の防衛努力に悪意ある影響を及ぼそうとする政治、軍事プロパガンダに対抗するための反プロパガンダ作戦を再強化する。
 
 デービッドソン司令官は同報告書で以上のような諸点をインド太平洋軍の今後の戦略目標として掲げ、その実行には約200億ドルの追加予算が必要だと議会に要請していた。
 当然ながら日本の防衛にも大きな影響を及ぼす米軍の動きだと言える。