「巧妙な中国の国連利用」
―中国が握っている4つの国連機関―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 日本人は「国連」というと国際的な仲裁機関を想像する。英語名は「United Nations」で、戦勝国連合が本来の意味だ。1995年頃日本は ①国連条約を替えて第3者的国際連合にする ②常任理事国に日本を加える――という〝国連改革〟に熱中したことがある。大方の国が賛成したのだが、常任理事国である中国が反対して改革の夢は潰れた。中国が安保理の常任理事国である限り、改革は困難だ。
 95年当時、中国は江沢民、胡錦涛主席の時代で、世界から学んで国家建設に振り向ける機運があった。米国をはじめ西側も中国を自由市場の仲間に加えれば豊かになり、民主化し共産党を卒業するかもしれないと期待した。こうして中国を国際貿易機関(WTO)に加入させた。入会に当たって朱鎔基首相は、「厳しい条件」を見て、「守れるかどうかは、こちらが決める」と答えた。
 案の上、というべきか、このあと中国はWTOの規則という規則を破り放題に破った。世界保健機関(WHO)の事務局長はエチオピアのテドロス氏だが、エチオピアの財政は中国が握っていると言われ、今回、テドロス氏は中国の代弁者のごとく振舞った。 
 国連にはWTOのような専門機関が15あるが、その内の世界知的所有権機関(WIPO)は公正な貿易規則を履行する上で極めて重要な役割を持っている。米国が中国に激怒しているのは知的所有権のルールを無視されたからだ。米国が高関税攻撃を仕掛けたのも「損した分をキャッシュで取り返す」意味である。
 あらゆる特殊技術は局長のデスクを通過する。中国の思惑はWIPOの事務局長を押さえ、トップに立てば各国の秘密をタダで頂けるというものだった。その選挙は3月に行われたが加盟193ヵ国のうち調整委員会を構成する83ヵ国が非公開で投票を行った。当初は中国代表が楽に当選するとみられていたが、米国が猛烈な巻き返しをした結果、6人の候補について決選投票が行われ、シンガポールのダレン・タン氏が55票を集め中国の王氏は28票にとどまった。
 中国は科学技術界のトップを目指して、莫大な金額を米国の大学、研究所、企業に投下してきた。その上にWIPOの事務局長を押さえれば、米国を抜いて科学技術、知的財産で米国を超えることもできたろう。
 目下中国が握っている重要な国連機関は ①国連工業開発機関(UNIDO)②国連食糧農業機関(FAO)③国際電気通信連合(ITU)④国際民間航空機関(ICAO)――の4つがある。
 先日、米国の大学の運営状況を聞く会があったが、無残の一言である。50人、100人単位の中国人留学生を学費と共に受け入れている。トランプ氏の号令で退学させつつあるが、大学経営が怪しくなるほどの中国依存度だったという。
(令和2年4月15日付静岡新聞『論壇』より転載)