伊勢志摩サミットで判明したのは中国をめぐる日米と欧州諸国の認識の差だ。南シナ海をめぐる中国の岩礁基地化の"暴挙”はサミット直前の安倍晋三首相の欧州歴訪によって危機意識が共有された。常設仲裁裁判所はフィリピン側の意見を聞いた上で判断を下す予定だ。中国は既に判断を拒否すると宣言しているが、中国の強硬突破となるのかどうか。一方、中国の経済状況は世界経済をも揺さぶっており、これをどう落ち着かせるか、世界は一致した診断書を持っていないように見える。
今年3月、日本財務省首脳は中国の外貨準備が異常な勢いで減っていると指摘した。これは中国内のバブルが弾けたせいで、外貨が猛烈な勢いで国外に逃げ出していることを意味する。昨年11月、国際通貨基金(IMF)は「中国金融市場の自由化」を条件に人民元のIMF特別引き出し権(SDR)構成組み込みを承認した。これは国際決済を元で払ってもいいとお墨付きを出したようなものである。為替投機で知られるジョージ・ソロス氏は、中国の3兆ドル(360兆円)に及ぶ外貨準備を踏まえれば「ハードランディングを乗り切れる」とも言った。SDRに組み込まれることを求め、承認されたからには当然、自由化までは一本道のはずだ。
中国はソロス氏に反発したが、中国の懸念を代弁するように日銀の黒田東彦総裁は2月のダボス会議で、資本逃避が止まらない中国について「資本規制強化の方が良いのではないか」と示唆した。資本規制強化は中国が歩んできた“市場経済”の方向とは全く逆方向だ。
中国の経済危機は中国の過剰投資、過剰設備と日本のバブル期をはるかに上回る企業債務から来ている。人民元資産に見切りを付けた中国国内投資家、預金者が海外に持ち出すことから外貨準備が激減しているのである。
中国の思惑は資本規制を実行する。言い換えればドルと結びついた管理変動相場制を維持し、チャイナバブルの生成装置は維持するということだ。その上でAIIB(アジア・インフラ投資銀行)を始動させ、近隣諸国に「一帯一路」の公共投資を行わせる。ついでに過剰の鉄鋼商品を吐くというものだろう。
中国がAIIBを設立した時、欧州諸国は当初から賛同して加入した。米国と日本だけが元のSDR加入は時期尚早と判断していたから断った。
今回、中国はAIIBを営業させ、一帯一路の建設を始めるという。しかし、ジャカルタでは既に国が落札した鉄道工事が準備不足で止まっているという。
世界に不況をもたらしている元凶は中国の過剰生産である。自らの構造改革なくして中国の経済の再生はない。世界の不況回復もない。ここで改めて考えたいのは社会主義に市場経済が成り立つのかということだ。企業トップは党幹部だが、3月の全人代の発表ではここ3年毎年5万人が汚職で捕まっており、そのうち、3万8000人が企業幹部だという。
(平成28年6月8日付静岡新聞『論壇』より転載)