「コロナ感染拡大で世界の中国観一変」
―中国・WHOの責任と世界市場の再配置―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 新型コロナウイルスの拡散によって世界の中国を見る目が様変わりした。これに先立って中国は世界貿易の大前提ともいえる知的財産権を無視して、自由貿易社会から追い出されようとしていた。日本の対中外交もはっきりと中国非難を打ち出すべきだ。ところがいまだに「隣国とは仲よくした方がいい」という二階俊博氏のような人が与党自民党の幹事長である。あえてケンカを売れとは言わないが、商売次元で考えては困る。
 自民党には米ソ冷戦終結後、外交は日米中の正三角形が適当だという論者が相当にいた。心情的に中国を切れない人も多かった。このため中国を国際貿易機関(WTO)に入れて、自由な貿易を許せば、自然に民主主義国になってくれるだろうという期待も生まれた。オバマ米大統領もそうだったし、日本自民党の主流派の中にも相当にいた。トランプ大統領が「日本の軍事力負担が少ない」と叫ぶと「アメリカが日本を見放すかもしれない。それなら中国とも仲良く」と発想する親中派が多い。野党のほとんども同じ考え方だった。
 新型コロナウイルスの発生は親中派の甘い考え方を打ち砕いた。国際的に公平、公正でなければならない世界保健機関(WHO)が中国の手先となって新型コロナウイルスの事実をひた隠しにした。今までに世界ですでに20万人の命を奪った。米国で損害賠償訴訟が起こされているが中国は払わないだろう。独裁国や共産主義国では独裁者は罪を認めない。認めたら独裁者は必ず殺されるからだ。
 トランプ大統領は世界中の国と貿易交渉を行って市場配置をやり直している。また世界の警察官としての役割をやめ、軍事上の分担を軽くしようとの思惑だ。貿易と軍事の2点から世界の市場を敵か味方かに仕分けし直している。中国を敵とみてアジア諸国を重視し、中国が得をするような規則や仕切りは許さないという意志を持つ。中国に立地した米企業の本国復帰を祝福し、失業率の低下を喜んでいた。このトランプ氏の目論見はコロナ騒ぎで頓挫したが、考え方は全く変わらない。中国は米側の努力に反抗するだろうが、コロナの不正直で親中派も反中に反転しつつある。一帯一路政策は世界を制覇する強烈な手段だったが、もはや借金まみれになって破綻しつつある。日本のホテル、旅館業者は中国人旅行者の復活を願っているが、中国庶民の負債額は極めて高い。中国のバブルは終わった。インバウンド消費は再現しまい。
 西側社会は今後、サプライチェーンの見直しに動くだろう。中国で重要部品を作っていた会社はコロナ騒ぎで製品を完成することができない。日本の代表的企業であるトヨタは中国に最新の研究所を作った。工場を全部引き上げろとは言わないが、トヨタの発想は大間違いだ。世界中の企業がサプライチェーンを再考し、味方は誰か敵は誰か吟味することになるだろう。安倍首相がなぜ習近平主席の国賓待遇にこだわったのかは分からない。
(令和2年4月29日付静岡新聞『論壇』より転載)