トランプ大統領は6月に開催予定だった7ヵ国サミットを9月に延期して、ロシア、オーストラリア、インド、韓国の4ヵ国も加え「G10またはG11」に拡大して開催する意向を示した。トランプ氏はG7の枠組みは「世界の状況を適切に反映していない」との認識だ。しかし、G11にして何をやりたいかと言えば、中国を“糾弾”することではないか。
中国は何千人もの規模の留学生を送って、大学、研究所、大企業から極秘の論文や機器を持ち出し、科学技術の水準を格段に上げた。「製造2025」という標語を揚げた意味は、25年には米国と並ぶ科学水準に達することだ。因幡の白兎ではないが、到達するまで黙っていれば、向こう岸に着いたかもしれない。うっかり「到着するぞ」と叫んだばかりにフカ(米国)が怒って兎を海に落した。米国は中国の学生や学者、技術者などのビザを取り消し、追い出しにかかったが、米国同様の目に遭っているのがオーストラリアとカナダだ。
オーストラリアは米国の同盟国であり、中国としては豪州を米国から引き離したい。そのために計画的に豪へ移民を送り込んだ。人口約2,550万人のうち、今や中国人は約121万人、人口の4.7%を占める。中国移民の特徴は集団でまとまって“チャイナタウン”を形成することである。シドニーの中心部はチャイナタウン化が進んでいるが、ビジネス地区のチャッツウッドも中国系住民が34%に達している。中国人住民の密度が多くなると中国語の交通標識や中国語の新聞も数種類出るようになる。モリソン首相は昨年2月から中国最大規模のSNSアプリ WeChatで中国語での発信を始めた。
中国政府もこうした移民を政治的に使い始める。2016年には野党・労働党のサム・ダスティヤリ上院議員が中国人実業家から金を受け取って南シナ海問題で中国の立場を擁護する発言を行った。ダスティヤリ議員は政界から追放され、ターンブル首相(当時)は「外国人からの献金の禁止」を打ち出した。同氏に資金提供をした中国人実業家は、永住権を無効にされ、国外追放となった。
2004年8月、共産党総書記の胡錦濤のもと中央委員会が「オーストラリアを属国化し、米豪同盟を壊す」と決定し、各国駐在の外交官を北京に集めて周知させた。05年に豪に亡命した元在シドニー領事館の一等書記官、陳用林氏によれば「軍事関連や人権問題を含む様々な分野で譲歩を迫り、米国にノーと言える西洋の国にする」と画策していると言う。中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手であると同時に、豪の留学生の4割近くが中国人である。
豪州が新型コロナウイルスの発生源について国際的な調査を呼びかけたことで中豪関係が悪化した。中国が豪製品のボイコットや農産物の輸入制限に動いている。トランプ氏の目論見が成功するかどうか。
(令和2年6月17日付静岡新聞『論壇』より転載)