「政界地図の大改革必須」
―自民老人党刷新で発想の転換図るべし―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 来年の9月に3回目の任期満了を迎える安倍晋三首相の後任に誰を選ぶか。自民党内は後任探しに四苦八苦しているが、任期9年の後釜が決まらないというのは政党の末期症状である。
 原因の一つは執行部の極端な老齢化だ。小泉純一郎内閣の時は例外的に任期を延長していた宮澤喜一氏と中曽根康弘氏に退陣を求めた。以来、満73歳を超えれば自発的に引退。党員の人材回転は自然に行われていた。
 しかし、安倍氏は、人材は役立つうちは使う主義。おかげで伊吹文明氏82歳、二階堂俊博氏81歳、麻生太郎氏79歳、竹本直一氏79歳と高齢者がゴロゴロいる。安倍氏は政権が長かったばかりに党議員73歳定年制をぶち壊してしまったことになる。結果、自民党全体が“老人党”の趣である。加えて、6月12日、前掲の老人のうち79歳の衛藤征四郎氏と76歳の奥野信亮氏ら5人が、二階幹事長に「定年制をやめろ」と申し込み、二階氏も「やめさせる」と答えたという。
 人生100年説というのは一般には人生を2回働くという意味で、のんべんだらりと100歳まで居続けるということではあるまい。
 コロナを巡る安倍晋三氏の手腕は抜群だった。武漢から邦人を帰国させ、登校を停止し、「県境を跨いで動くな」と全て打つ手が的中した。死者は欧米に比べて2桁少ない。海外では安倍の手腕は高く評価されている。ところが、内閣支持率は30%台とさっぱり上がらない。コロナが一段落した時点で4~5%下がっているので本人も気落ちしただろう。こういう現象を「人心が倦んだ」とでも言うのだろうか。安倍政治に飽きたというより長すぎた自民党政治に飽きたということだろう。憲法は防衛とコロナのような緊急事態宣言には万全の条文にしておくべきだ。米国に占領されて保護下にあった日本と、いま直面している軍事脅威とは次元が違う。占領下でぬくぬくと育った世代から新しい世代に代わったのだから発想の転換を図るべきだろう。
 小沢一郎氏が言うように「共産党まで一団となって野党連合をしなければ天下を取れない」との考え方は旧体制の遺言のようなものである。日本共産党がイタリアの共産党のように「時代が変わった」と認識し、自ら解党するほど賢ければ、自民党も改革する必要を自覚したろう。共産党を押さえて自民党が天下を取ってさえいればいいと考えているのが大失敗のもとだ。
 立憲民主党の枝野幸男氏は小沢一郎氏と同じ発想の野党総連合で政権を取る考え方だが、「共産党と組む」一点で玉木雄一郎国民民主党代表とは相容れない。先日、立憲を離党した山尾志桜里氏は「政党である以上、憲法改正を議論するのは当たり前だ」と言う。最近、維新が前原誠司氏元民進党代表と会談したのも新局面だが、維新と国民が橋下徹氏のような“全国区”の人物を立てれば政界地図は様変わりするだろう。
(令和2年6月24日付静岡新聞『論壇』より転載)