自民党は中国の習近平国家主席の国賓来日を受け入れる余地を残した決議を示した。当初の自民党外交部会と外交調査会の合同会議では「習近平国家主席の国賓問題については中止を要請する」となっていた。しかし6日、再度開かれた合同会議では「中止を要請せざるを得ない」と猛烈に後退させた。これは2度目の会議に二階俊博幹事長派議員が潜り込んで、5人が反対の意見を述べた結果だという。二階氏の中国観は「日中がここまで来たのは先人たちの大変な苦労があった。この日中関係を壊してはいけない」とする認識だ。
この認識は根本的に間違っている。外交の安倍ともいわれる安倍首相が「間違い」に気付いていないはずはない。トランプ式乱暴な方法でなくても「一回ぶち壊して、理想の形に創り直そう」とするのが安倍氏の意志ではないか。日本の歴史的な対中外交は、607年聖徳太子が小野妹子を遣隋使として派遣し、日中両国は対等である意を示した。その後、幕府は鎖国政策で対中関係を終始させた。この国是は帝国主義の時代に守り切れなかったが、この際その精神を取り戻すべきだ。
中国は古来、中華思想を揚げて、東西南北を東夷、西戎、南蛮、北狄と名付けて征伐の対象としてきた。いまなおチベットやウイグル文化を抹殺しているのも漢民族の本性だ。
以上のような目で中国を観察していれば米中貿易戦争も武漢コロナ騒ぎも起きなかったはずだ。米ソ冷戦で米国が勝ち、中国共産党にどう対応するかという段になって、西側諸国は民主主義と自由主義の弱点をさらけ出してしまった。中国を世界の仲間の一員として扱えば、いつか中国も民主主義国家の一員に代わるのではないか。世界が中国を普通の国並みに見直した一因は1992年10月の天皇訪中である。これに先立つ1989年、6月4日に天安門事件が起こった。世界中に中国に対する警戒感がみなぎったが、3年後の天皇訪中によって、中国は世界に“普通の国”として見られるようになったのである。いま中国が狙っているのも、天皇訪中効果である。
こうして2001年には世界貿易機関(WTO)に迎えるのである。そこで中国がやったことと言えば、世界の知的財産を盗み放題盗み、新たな開発分野にも潜入することだった。ファーウェイの半導体は政府補助金をつぎ込んで価格を3分の1下げてある。こうして対米貿易の黒字が35兆6,000億円(2018年)。この黒字で軍事費は毎年二桁増を20年間続けている。軍事的危険信号に驚いたトランプ氏が中国叩きを始めたのだが、そのやり方はともかく、トランプ氏は初めてまっとうな中国評価ができた大統領だ。
今が中国政策を劇的に変化できるチャンスである。日本は米国の手助けがないと国を守り切れない。アメリカも日本の助力がないと自国を守り切れない。安倍首相は日米安保条約上の見地から中国を見直すべきだ。二階氏の俗論など気にする必要はない。
(令和2年7月15日付静岡新聞『論壇』より転載)