ポンペオ米国務長官が7月23日、中国の習近平を名指しして、「全体主義の信奉者だ」と批判した。この講演を行なったのは、1979年に米中国交正常化を主導したリチャード・ニクソン元米大統領を記念して建てられた図書館だった。
ポンペオ氏は、この講演で「当時は対中国包容政策が全世界に明るい未来をもたらすと考えたが、錯覚だった」「歴代米国政権の対中国包容政策は失敗した」と断定した。ポンペオ氏の発言は、大統領選挙で民主党のバイデン候補に差をつけられているトランプ大統領の意向を受けたものという見方が専門家の間ではなされている。
それはともかく、私が興味を持ったのは、「全体主義」という言葉だ。日本共産党も「全体主義」という批判を受けてきたからだ。「全体主義」とは、「個人の全ては全体に従属すべきとする思想または政治体制」とされている。旧ソ連や中国などの現実を見れば、「共産主義=全体主義」という批判も当然のことである。
この数ヵ月、新型コロナウイルスの蔓延もあって自宅で過ごす時間が圧倒的に長く、暇を持て余している。そのためNHKのBSプレミアムで平日の午後1時からの映画を観ることがある。つまらない映画も多いが、面白いのもある。
5月に「ドクトル・ジバゴ」(1965年)が放映された。ロシア革命に翻弄される詩人でもあり、医師でもあるユーリー・ジバゴと恋人ラーラの壮絶な人生を描いたものである。革命によって自宅を奪われ、反革命の人物として追及されるなど革命の過酷さがよく分かる。ソ連の共産党が、この映画を「革命が人類の進歩と幸福に必ずしも寄与しないことを証明しようとした」と非難したのも頷ける。この映画を見れば、社会主義革命に憧れることなど無かっただろう。
もう一つが7月に放映された「ニノチカ」(1939年)というコメディ映画である。主役は、伝説の名女優グレタ・ガルボだ。「ニノチカ」というのは、グレタ・ガルボが演じたソ連共産党員の名前だ。ロシア革命で貴族から没収した宝石類を食糧難の解消のため、3人の役人がパリに売りにやって来る。それが上手く進まないので、監視のためにパリにやってくるのがニノチカである。そのニノチカと街中で出会うのが、フランス人のレオン伯爵だった。レオンはニノチカに一目惚れし、口説き落とすことに成功する。
レオン伯爵は、3人の役人やニノチカに優雅なパリの暮らしをさせてやり、4人はその虜になってしまう。だが本国の指令もあり、4人はソ連に帰ってしまう。だがソ連の暮らしは、住まいも、食事も実に貧しいものだった。一方、レオン伯爵はニノチカをあきらめず、ついにはニノチカだけではなく、3人の役人もまとめてパリに亡命させてしまう、というのがストーリーだ。明るくソ連の共産主義体制の滑稽さを描き、風刺したものである。
いずれの映画も社会主義は、理想などではないということがよく描かれていた。